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ソニー・ミュージックアーティスツの社長につんく♂が聞く、令和の音楽業界のリアル

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」。今回の対談ゲストはソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)代表取締役執行役員社長の桂田大助さんです。後編では、これからの音楽業界についてざっくばらんに議論を交わします。桂田さんは2019年2月、代表取締役に就任。そこからコロナ禍を経て、サブスクの台頭など変化の激しい音楽業界をどのようにサバイブされているのか。今後の未来の展望など、つんく♂が聞き出します。前編はこちら。
<文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あや(ピース株式会社) /写真 ヤギシタヨシカツ

SMAの現在地。つんく♂「いま人気のアーティストは?」


つんく♂:お会いする機会はちょこちょこありますけど、桂田さんからつんく♂に対して意見や思うことはないですか?

桂田:今回の話を受けてつんく♂さんについて考えたときに、うちのスタッフにつんく♂さんファンって結構いるんですよ。

つんく♂:ありがたいなあ。なんのファンですかね?

桂田:プロデュース能力、楽曲の感じ、独特のセンス。いっぱい理由はあると思います。

つんく♂:『ASAYAN』を見てくれていた世代かもしれないですね。だから、僕のプロデュースの感じとかもわかってくれていて。たとえば現場を一緒にしてきて、つんく♂のどきっとしたり怖かったりした一言はないですか?

桂田:そうですね……モーニング娘。がまだデビューしたばかりの頃に、名古屋の日本ガイシホールでライブをしたじゃないですか。ライブ終了後に、つんく♂さんがモーニング娘。に向かって「幼稚園の先生みたいなことはするな」とおっしゃってて。MCに対する指摘だったんですけど、それがすごく印象的です。

つんく♂:ああ、言ったな。モーニング娘。のメンバーらが、ファンに対して子どもに話すような喋り方になっていったんですよ。「みなさん、◯◯しましょうね〜」みたいな。ももちのようにキャラクター設定としてきちんとしていればありやけど、みんながみんなそういう言い方なのは、ファンに対して失礼やと思ったんですよね。

桂田:すごく覚えてます。そこで、つんく♂さんのファン目線を再認識しました。

つんく♂:社長になられたのが2019年ですよね。3年ほど経ちましたが、どうですか?

桂田:正直、所属アーティストのライブを見るのに必死でした。

つんく♂:今、何組くらい所属しているんですか?

桂田:ミュージシャン、俳優・タレント、声優、芸人を入れて200組くらいです。

つんく♂:それは、毎日スケジュールが埋まっちゃいますね。「来てくれないの?」って言われちゃいそう。

桂田:一度は必ず、ライブを見るようにしました。

つんく♂:いまは、どのアーティストが人気ですか?

桂田:LiSAが筆頭になりましたね。『鬼滅の刃』の主題歌にもなった『紅蓮華』で幅広く知ってもらいました。

つんく♂:バンドで人気があったり、実はすごいみたいな人はいるんですか?

桂田:それでいうと、UNISON SQUARE GARDENの人気ぶりには驚きました。

つんく♂:大きな会場でライブをしていたり?

桂田:それが、そういうことは敢えてしていないみたいで。ストイックにライブに向き合うバンドで、コロナ禍のライブ配信の数も予想以上でした。

つんく♂:それはそれで素晴らしいけどね。かっこいい。

桂田:ですよね。それはそれで成立しているし。あとはOKAMOTO’Sとか、新しいアーティストだとmiletは期待できますね。

サブスク全盛期。アーティストと会社はどうやって収入を得ていけばいいのか

つんく♂:ちなみに、いまはCDで売り上げを立てるのは難しい。どう売っていくのが正解なんですか?

桂田:miletのような新人の場合は、まずサブスクの再生回数をいかに伸ばして知名度を上げるか、っていうところが大事ですね。彼女の場合はパッケージも好評で、1stアルバムは10万枚売れました。

つんく♂:アーティストの収入のためには、サブスクは当てにならないじゃないですか?

桂田:サブスクの再生回数を伸ばしながら、今は物販、興行が頼りですね。

つんく♂:コロナ禍はどうしてたんですか? ひたすら我慢ですか?

桂田:2020年の春先からは頭を抱えました。ライブを組んでいたのに全部できなくなり。

つんく♂:ハロー!プロジェクトで考えたら、生写真、ポスター、Tシャツなどグッズがある程度売れることで収入が支えられますけど、アーティストの場合は「グッズをやりたくない」と言う人もいるんじゃないですか?

桂田:でも、比較的理解があると思います。ただ、接触を積極的にしていないので物販をするのみです。

つんく♂:いま、K-POPの勢いがすごいわけですけど、日本の音楽業界を引っ張っていく会社として世界戦略のイメージはありますか?

桂田:そうですね……まだ考えているところではありますが、一つ大事な柱になっていくのはアニソンだと思います。アニプレックスというグループ会社もあるので、会社全体としてやっていきたいですね。

つんく♂:それはいいですね。うちの子どもたちも、ハワイの学校の同級生たちも、だいたい『紅蓮華』を知ってます。でもそれは、楽曲だけ海外でヒットすることって少ないですよね。アニメありきになってしまうというか。

桂田:そうなんですよね。なので、一過性にしないプラットフォームを考えていかなきゃいけないです。

つんく♂:まあでも、ミラクルを一度でも起こせるのはすごいことですよね。『鬼滅の刃』もそんなに簡単な物語ではないじゃないですか。日本人が日本のアイデンティティを持ってしてもわからないところが多いので、海外の人はどこまで理解してるのかなって思いますけど、だいたいみんな知ってます。あんなに刺激が強い内容なのに。

桂田:『鬼滅の刃』の1話目なんて、直視できなくて目を覆ってしまいそうなシーンもありました。

つんく♂:でも、それが世界にいくきっかけなんでしょうね。息子はゲームとアニメが好きで、米津玄師の名前が読めなくっても『チェンソーマン』を知ってました。

桂田:(笑)。これは、すごくいい曲なので一緒にヒットする気がします。

つんく♂:あと、そういう意味でいうと「歌のうまい子」って大事ですよね。

桂田:そうですね、そこはSMAとしても大事にしているところです。

つんく♂:でも、次々と期待のアーティストと楽曲が待ち構えていて、すごく順調ですね。

桂田:いやいや、アーティストとスタッフの切磋琢磨のおかげです。

つんく♂:最後に、長く芸能界に携わられていて、この日本の芸能界はどうなっていったらハッピーだと思われますか?

桂田:そうですね……あえて言うならば、いまはエージェント的な契約の結び方が主流になっていますけど、専属で関わらないと「対人と人」が薄れていくかなと思います。もちろん、エージェントとしての関わりを好む人もいるのでそちらは持ちつつ、専属でやる意味・良さみたいなものをもっと打ち出して、やっていきたいですね。

つんく♂:育成的なこともやっているんですか?

桂田:始めたばかりなんですが、やってます。ミュージシャンを育成する目的で、まだ1期生なんですが数名ご一緒しています。専用スタジオを用意して、集中的にやっているところです。

つんく♂:いろいろ挑戦されてますね。最後につんく♂に対するコメントはないですか?

桂田:冗談じゃなく、ノーベル文化賞みたいなものが新設されたらとってほしいくらいです。それくらい独自の嗅覚を持ってらっしゃるじゃないですか。

つんく♂:お金儲けが下手やから、結果それがよかったのかもしれないです。

桂田:やっぱりつんく♂さんはプロデューサーですよね。

つんく♂:いろいろやってみましたけど、結果そこしか残らなかったですね。餅は餅屋というか、歳を重ねるほど思います。

もしつんく♂がSMAの社長なら?令和に仕掛けたい、新たな試み

──追加で質問をさせてください。常に新人発掘など、いろんな目で事業開発していかなければいけないと思うのですが、SMAとして新人に求めるものはなんですか?

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