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映画『あの頃。』を観たつんく♂が今だから語れる、松浦亜弥とモー娘。とハロプロ。

2月19日(金)、ハロプロファン(ハロヲタ)の青春期を描いた映画『あの頃。』が全国公開されます。まさにあの頃、ハロプロプロデューサーだったつんく♂は、本作をどう観たのか? 作品への想いと、原作者・劔樹人さんへのメッセージを綴ったコラムをお届けします。
(文 つんく♂ / 編集 小沢あや

ある日、僕の元に届いた「恋ING」の利用申請

僕は、原作を読んだわけありません。

2019年12月にスタッフから「映画でモーニング娘。の曲をカバーしたいという申請が来ています。アマチュアバンドがコピーするという設定で曲を使いたいということです。許諾しますか?」という連絡がありました。楽曲は「恋ING」。

自慢するわけではないですが、僕の楽曲はJASRACに1900曲ほど登録されています。ヒット曲はもちろんのこと、昨今のカバーブームもあり、ありがたいことに、頻繁につんく♂作品の楽曲使用申請があります。

そんな中のひとつではあるんですが、「シングルのカップリング曲か……まあまあ、マニアックやな。どんな映画なの?」と、スタッフに聞きました。

CMやドラマや何かの番組の中で使われるときは、たいてい大ヒットした曲がチョイスされます。モーニング娘。ファンなら当然知ってる曲「恋ING」ではありますが、お茶の間への浸透度は低いわけで、おそらくマイナーなインディーズ作品とか、映画の中でもBGM的な感じで使うんだろうなぁ……と思っていると、なんと映画の劇中曲として使用したいとの返事。さらには、主演が「松坂桃李」だといいます。

あら、そんな有名イケメンが主演なんて、これはマイナー作品じゃないやん。なんで、この曲選んだんだろ……? 不思議になり、詳しく話を聞きました。

「原作が神聖かまってちゃんのマネージャーをしてた人です」

(ああ、神聖かまってちゃん! 2011年頃、吉見佑子さんに「すごくいいから絶対にあなたは観た方がいい」と、散々魅力を語られたので、ももクロとの対バンライブを覗きに行ったあのバンドか!)

「現TNXの社員で元P.I. MONSTERのBass「奥」の大学時代の後輩で……」

(ほうほう。あいつの後輩ね。なるほど)

「とまあ、かなり近い距離のところにいる方が原作で、その彼が学生時代『ハロヲタ』だった事を軸に物語が展開されるお話で……うんぬんかんぬん……」

話途中で「OKOK。断る理由ないし、許諾しておいてください」と返し、通常通り、他の仕事の議題で会議を再開しました。

楽曲許諾をしたこともすっかり忘れていた2020年1月下旬、また連絡がありました。「例の映画ですが、主人公の松坂桃李さんがBassを弾くバンドアレンジの『恋ING』が上がってきたので、音を確認ください」。

でも、こういうのは映画に託すわけで、ちょこちょこダメ出ししても作品が弱まるだけです。一応、確認はしたものの、中身に関しては一切口出ししませんでした。

巡り巡って吉見佑子さんが繋いでくれた、劔氏との縁

僕は病気によって歌声を失ってから、しばらくの間、外部の方々と接して仕事をする機会を、最小限に絞っていた気がします。でも、しばらくしてオンラインサロンとnoteを始めました。そこから、またいろんな人とコミュニケーションを取るようになったんです。

例えば、noteの対談ゲストとして「つんく♂曲に救われた」と公言してくれたエッセイストの犬山紙子さん。案の定、会話はモーニング娘。を中心にハロプロの話や彼女のこれまでの歩みで盛り上がりました。そして、彼女は例の映画『あの頃。』の原作者「劔樹人」氏のパートナーだったんです。

そうこうしてる間に映画『あの頃。』の公開日が近づいてきました。超久しぶりに吉見佑子さんから連絡がありました。「あなたはハロプロでたくさんの素晴らしい作品を送り出してたのねえ。映画『あの頃。』、観なさいよ!」と。

実は、この吉見佑子さん、彼女がシャ乱Qを芸能界に送り込んでくれたと言っても過言ではない人物なんです。

当時、大学を卒業したばかりの僕は就職内定を断って、アルバイトをしながらのプー太郎生活を送っていました。そのプー太郎生活1年目に受けたNHK主催のバンドコンテストで優勝したのがシャ乱Qなんですが、大阪の予選の時から審査員だったのが、吉見佑子さんでした。

当時、大阪のアマチュア界でイケイケドンドンだった僕らを超気に入ってくれて、東京で行われる決勝大会までの期間に方々で、「大阪にすごいバンドが現れた!」「エンタメ力もあって、ビジネス出来そうなやつら!」なんて関係者に口コミを広めてくださって。おかげで決勝大会までに、たくさんのレコード会社や音楽プロダクションからオファーがくるようになったのです。

彼女は常に、ピチピチしていて尖った匂いのする、まさにこれからのバンドとか、サブカルとメジャーの間あたりのイキのいいアーティストを見つける嗅覚が鋭いことで有名な方でした。吉見さんは今でも、あちこちからステキなバンドや著名人、若手起業家を見つけては、ちょくちょく僕に教えてくれるのです。

そんな吉見さんが僕に教えてくれたバンドのひとつが「神聖かまってちゃん」。当時から噂では聞いてたけど、音源聴いたり、ライブ観にいったりはしたことはありませんでした。でも「吉見さんがいうなら、何か勉強になるかもしれない」と思って、2011年2月25日にあった「神聖かまってちゃんとももクロの対バン」を観に行ったのです。

で、2015年に吉見さんから再び突然連絡があった時に「最近仲良くしている劔樹人さんって友達がいて、あなたに紹介したいわ」と言われました。しかし僕も病気した後だったし、「ぜひ!」と言いながらも、そのままハワイに引っ越したので実現しなかったんです。

今回の映画の原作者が「あの劔」だと理解するまでは時間がかかりましたが、映画を先に観させてもらいました。

ハロー!プロジェクトのプロデューサーとして活躍してた頃の僕をほとんど知らない吉見さんが「絶対観なさいよ! しかし、私の知らない間にあややとかモーニング娘。、ハロプロで、ずいぶんいい仕事をしてたのね。こうやって映画になるって、いいわね」と言ってくれました。映画を通じて、プロデューサーとしてのつんく♂も認めてもらえたような気がして、うれしかったです。

その後、僕のエンタメサロンにゲストとして劔氏にも来てもらえました。直接紹介してもらえたわけじゃないし、うちの社員のバンドの後輩なので非常に近い距離にはあるんだけども、なんだか吉見さん経由で紹介してもらえた気がしました。30年の時を超えて、吉見さんに世話になったような感覚です。

つんく♂の「あの頃。」を支えてくれた人たち

僕はあの頃、本当にたくさんの人に応援されながら日々を過ごしていました。社会現象的に「ヲタク」が取り上げられるようにもなった時代です。

自分でいうのもなんですが、作品として「アイドル」というジャンルで音楽を作ってはいけないと思っていました。「僕はいつもロックの概念で曲を作り続ける。自分が歌っても何も違和感ない音楽を」と。

映画に出てくる「♡桃色片想い♡」にしても、J-ROCK的なシンコペーションの多い鋭いビートの曲です。劇中歌に選んでくれた「恋ING」も、歌詞に引っ張られず、バックトラックを聴いてほしいです。特にサビのベースライン。アマチュアでは弾けないような、超マニアックなベースラインをぶち込んであります。劔氏がベーシストだから、そういうところに反応して、この曲を選んでくれた……のかどうかはわかりませんが、とにかくロックスピリッツ満載なのが僕の曲なんです。

だから「LOVEマシーン」やミニモニ。、プッチモニ、松浦の曲は当時からたくさんクラブでもかかったし、バンドマンらのファンも多かったんです。「アイドル産業に魂売りやがって。適当に量産してるんやろ」って、ちゃんと聴きもしない同業者に影でコソコソ囁かれてる声も聞こえてきたんですが、バンドマンや玄人DJたちが面白がってかけてくれて、応援してくれてるその言葉を心の支えにしていました。決して手を抜かず、常に新しい音楽(ロックであれR&Bであれファンクであれ)を作ったし、365日24時間、それだけを考えて生きていたわけです。

その僕の魂に気がついてくれたバンドマンが作ってくれた映画『あの頃。』。映画にはバンドマンの哀愁と、ハロプロに魅了された男子たちとバブル崩壊後の2000年代の日本が映し出されています。

僕らが大阪の大学生で、アマチュアバンドだった1988〜91年時代とはまた違うけど、「ロックやバンドをやろう!」ってヤツらは、どっか社会に馴染めず、何かした不満やメッセージを心に秘めいます。他と同じになるのが嫌で、実は変に真面目だったりする。それはいつの時代も共通です。

この映画を観て、僕も同じようにタイムスリップ。ハロプロ自体を懐かしく思うっていうより、自分自身が夢を追っかけてた頃や、日々寝不足の中、毎日が締め切り状態が続いた苦しいけど頑張った、やりがいのあったあの仕事たちが今こうやって日の目を見たような感覚がしました。

映画の冒頭の方で主演演じる松坂桃李くんが、ブラウン管テレビで松浦亜弥を再生してる姿、シーンを見て、音楽を聴きながら、目いっぱいに涙が浮かんでしまいました。楽しく、可愛いはずの松浦の顔と音楽を聴きながらね。

作中に「初めてのハッピーバースディ!」の立て看板が出てきます。この時の石川梨華のジャケット写真、撮影の段階で光が飛んでしまってて、顔が真っ白だったんです。「当時の技術で表情がもっと自然に出るように、あれこれ何回もデサインをやり直した結果があのジャケットだったなぁ」とか、レコーディングの合間にデザインを何回もチェックしたことも思い出しました。

笑ったのは、ウォーリーを探せ状態でぱいぱいでか美が紛れていたこと。僕はこの映画、2回観たんです。1回目はiPhone画面で観たのでわからなかったけど、2回目は妻と一緒にでっかいテレビに繋いでみたので、「あ、でか美おる!」って気がつきました。

途中、主演の松坂桃李くんがあややコンに行くんですが、20年後の松坂くんが出てくるシーン、本当は映画の演出的には本人の「劔」氏を出したかったのかなぁ……とか思いましたね。

松浦亜弥の握手会のシーンも、役者の衣装もメイクも当時の松浦そっくりに再現してありました。「この役をよく引き受けたなぁ。松浦と比べられるし、なかなかの勇気がある事務所やなぁ」って思ってググったらアップフロントのタレントで、「ああ、そりゃそうか!」って納得してしまった(笑)。山﨑夢羽、頑張ってた。よかったで〜!

ということで、とても楽しく、感慨深い117分で余韻に浸りながら最後のエンドロールをぼーっと眺めてました。
すると、スペシャルサンクスのところで「松浦亜弥」「アップフロントワークス」「アップフロントインターナショナル」と出てきて、さ、俺だなと思って身構えました。が、結局「つんく♂」が出てこなかったので、「ズコッ!」っとなったんですが、これも青春。ま、ええとしましょ!とすることにしました。(笑)

みなさん、『あの頃。』、ぜひ観てください。ハロヲタを観るものでも、当時を懐かしむものでもなく、人間誰しもの心の中にある、挫折や孤独、友情や、裏切り、人のあたたかさや、希望や夢、そして、音楽が持つ真の強さがいっぱい詰まった映画です。音楽を理解してる人だからこそ作れる、勇気づけられる作品だなって思いました。じっくり観て欲しいです!

『あの頃。』
2021年2月19日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか
全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
©2020『あの頃。』製作委員会

先日、つんく♂エンタメ♪サロンの生配信に劔氏がゲスト出演してくれた際の動画もアップしました。

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