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ヒット作を生むために必要な、3つの結論。

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<文 つんく♂ / 編集 小沢あや(ピース) / イラスト みずしな孝之

1991年、アマチュアバンドとして大阪で人気バンドとなって、全国区のコンテストで優勝し、完全に調子に乗っていた状態で上京。翌年7月にデビューしたものの、正直、全然人気が出ませんでした。

実は、アマチュア時代の方がめちゃくちゃ忙しかったのです。全部自分たちの手で音楽作りからライブ、宣伝まで全て行っていましたからね。

それが上京後、プロになってからは、人気があろうがなかろうが、レコーディング現場には録音するプロがいて、コンサート現場にもプロの舞台監督がいて、CDが完成したあとは、それをプロモーションするためのプロがいて……全部、誰かがやってくれました。アマチュア時代のように宣伝用のチラシでテキスト部分やデザインを考えてレイアウトしなくっても、プロがサクサクとやってくれるわけですね。

その頃の僕らの仕事は、いたってシンプル。「売れる曲作ってね〜」とレコード会社からも事務所からも言われるので、自宅にこもって作曲作業をするだけです。

振り返ると、曲を作るためだけに1週間とか2週間かけられるなんて、贅沢な時間の使い方でした。

学生時代は学校のことやアルバイトをしつつ、アマチュアバンドの裏方のことまでやって、作曲とか、作詞とかをやってたわけで。「間(はざま)」で制作をやってたような感覚でした。

そこから、時間の100%をクリエイトに使って良いという、夢の様な環境が手に入ったのに。当時はその幸せに気がつかず、やれ「金がない」「楽器や機材が揃わない」「ちゃんとしたスタジオで曲作りさせてくれ」「宣伝が下手やから売れない〜」「暇や〜」「腹減った〜」「無理〜」「こんな環境じゃひらめかない」と、人や環境のせいにしてました。

今の僕からしたら、完全なる「アホ」。

音楽作るのに、環境なんてなんでもいいんです。時間とやる気があれば、なんとかなります。がちゃがちゃうるさい場所でも、イヤホンをつければ十分やれます。楽器の値段で曲を作るわけではないし、立派なスタジオに入ったからといって急にテクニックが上がるわけでもありません。

「他人や環境のせいにするのは、出来ないヤツの言い訳」だったな〜って、今ならわかります。

でも、そういうことに気がつくのに、ずいぶん時間がかかりました。当時、「自分は才能のある選ばれたヤツ」だと思いたかったし、そう考えていたからです。

「俺には、神様から与えられた才能があるはず」「曲は降ってくる、整った環境の中で曲を作っていたら、神様がチャンスを与えてくれる」くらいに思ってましたね。

作曲する期間が1週間あったとしても、最初の4、5日はパチンコやったり、レンタル漫画を読み続けたりね。で、最後の1〜2日で慌てて2〜3曲作って。中途半端に仕上がりのまま提出して、会議で、コテンパンに言われて、意気消沈して家に帰る……。そんな感じでした。

夏休みの宿題か! ってな話。結局最後の1〜2日でやれちゃうんだから、最初に仕上げちゃえば、後々楽なのに、それが出来ない。人間ってアホな生き物ですよね。

そんなこんなやってる間にシングルも数枚発売し、あっという間にデビューから1年半ほどが経ちました。同じ頃にデビューしたミスチル、スピッツは確実に動員が増えて、ヒット曲も出していました。正直、僕らのプロとしてのタイムリミットは限界。いつ契約を切られても、おかしくなかったです。

もちろんこの間も作曲、ライブのステージング、レコーディングの仕方、作詞のノウハウなど、いろいろ勉強しました。それだけでなく、ラジオの出演の仕方、雑誌のインタビューの受け方。そしてローカル局かもしれないけれど、テレビ番組に出演した際のトークなども。

今日は、その中でも自分を大きく変えたことを伝えます。

僕が子どもの頃、テレビ番組にスプーンをペロって曲げるマジシャンというか、超能力師みたいな人がたくさん出ていました。
僕は彼らを見て、「すごいな」って思いつつも「あいつらに出来るんだから俺にも出来るんじゃないか!?」と、スプーン曲げをやってみたり、ミニカーに向かって「動け動け!」と念じたりしてました。

もちろん、スプーンは曲がらないし、ミニカーも動きません。それでも、「訓練すれば出来るようになる!」「俺は他とは違う!」みたいに、考えたことなかったですか? 僕だけだったらごめんなさい。

そんな僕が、そのまま大きくなって、一応大阪で人気者になって、バンドの大会でも優勝しちゃったわけです。「やっぱ、俺は違う!」と思って調子に乗るのも、うなずけちゃいますよね。

当然のごとく、この考えが間違っていました。僕には超能力なんてなく、スプーンも曲げられない。ミニカーも動かない。透視も予知能力も、まったくありません。同じように、作曲能力も作詞能力も、普通の大阪の兄ちゃんだったわけです。

これを認めるまで、時間がかかりました。夢見るのもいい。大きな目標を持つのもいい。誰かにその夢が笑われてもいい。夢に夢中になりすぎて友達が減っても仕方ない。でも、それと「自分が超能力師だ」って思うのは、まったく違います。

僕が伝えたいこと。それは、「自分は超能力師(天才)でもなんでもなく、そのへんにいる人の平均的能力しかないんだということを、まず知る(認める)こと。そして、それをわかった上で、自分の能力を高めていくことが大事」ってことです。

要するに、努力というんでしょうか。ただ、そもそも音楽が好きだったので、辛い努力をしたという記憶はありません。ただ、1日24時間のほとんどを音楽のこと、芸能界のことを考えました。

プロになって上京してから、専門分野は他のプロに任せることが出来るようになった分、自分にしか出来ない部分に集中して時間を使うようになったのです。

締め切り直前の1〜2日を頑張るのではなく、最初からスケジュールを立てる。もしも1週間あるなら、月曜作曲、火曜はお散歩DAY。水曜作曲、木曜映画DAY。金・土曜は連続で作曲。そして日曜は予備日……みたいな考え方にしました。

最後の1〜2日で2〜3曲作るよりも、最初からちょこちょこ作り出す。で、「何もしない!」って日も決めておくのがポイントです。「毎日家に帰ったら2〜3時間やろう」みたいに思ってると、結局やらない。もしくはちょっとやって「明日にしよ!」ってなりますから。

なので、最初からサボる日を決めておくのです。で、サボる日も作業はしないけど、街のなか、電車の中、本屋さんの中、どんな場所であっても、楽曲作りにおいての「ヒント」をずっと探してるような状態で24時間生きる。こうすると、普段スルーしてた広告や、マックの中でかかってたBGM、街を歩く女子高生のファッションからもバンバンヒントをもらえて、いろんな曲が浮かんでくるんです。

すると、「もう早く帰って作曲がしたい!」みたいになるんですね。不思議と。ま、こんな時は帰って作曲してもいいし、重要な部分だけメモして、明日起きてからじっくりする……でもいいんです。作曲するということに流れ、リズムが出てくるようになっていきます。

ここでみなさんにお伝えしておきたいことを、最後にもうひとつ。

全ての職業の人に置き換えていいかはわかりませんが、僕らのジャンル、いわゆるJ-POPに関しては、5分前後の曲を作るケースが多いです。なので、僕は自分が超能力者(天才)じゃないって悟ってからは、「曲を作る!」って決めた日には、どんな不恰好で不出来でイメージと違うものであっても、「1曲として仕上げて箸を置く」と決めました。

作曲をしていると、AメロBメロまでスラスラ書けても、サビが「あーでもない」「こーでもない」ってなったり、書き上げてから「やっぱこう変更しよう」「こっちのパターンがええかな」って迷ってきて、「あーもうわからん。消してやり直し!」「もう一回やる!」……ってやってるうちに、眠くなってきて頭が回らなくなって「明日やろ!」ってなってしまうパターンがあります。これは、一番だめ。

どの場面でつまずいても、とにかく一旦完成させることが大事です。曲でも、作詞でもそうですが、下手でも、なんかしっくり来ないでも、「パンチ弱いな」でもいいんで、一回終止符を打ってください。

そうすることで、翌朝改めて聴いてみたら「あれ? ええやん!」とか「あ、ここだけちょっと変えたらええんや!」となります。よくわからないまま、その曲を半年ほど放っておいたとしても、半年後に聴いたら「あ、わかった! ここをこうしよう!」となったり、誰かに聴かせたときに「この曲いいね〜!」ってなったりもします。

でも、終わらせてなかったら、この現象も起きません。非常にもったいない。なので、ぜひみなさんも一旦〆る、箸を置く、終止符を打つ、という癖をつけてください。

結論! 

自分は超能力者なんかじゃない(天才ではない)ことを知る。
超平均的な人間であるからこそ、ごぼう抜き出来る可能性も持っている。
一旦仕上げる。まとめる。終止符を打つ。箸を置く。

この3つを軸に、みなさんもクリエーター、仕事人としての人生を歩んでいただけたらと思っております。

パチっ(箸を置く音)!

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