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逃げて逃げて今がある。東京ゲゲゲイMIKEY×つんく♂対談

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」。今回の対談ゲストはアーティストの東京ゲゲゲイ・MIKEYさんです。ダンサー、シンガーソングライター、そして映像クリエイターとエンターテイメントの世界で幅広く活躍し、数々のアーティストの振り付けやコラボ曲も発表。その唯一無二の立ち位置に、つんく♂も「ずるい!」とうらやむほど。対談前編は、ソロになったばかりのMIKEYさんのこれまでをつんく♂が探ります。後編はこちら
<文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あや(ピース株式会社)

つんく♂が思う、東京ゲゲゲイにしかないクリエイティビティ

つんく♂:初めまして〜!僕も長い芸能生活でいろんな人に出会ってきましたけど、MIKEYさん的ポジションの人は、いたようでいなかったなって思います。正直、だいぶずるい。

MIKEY:ずるい、ですか(笑)。

つんく♂:時代的に騒いだりはしゃいだりできないから難しいけど、ほんまならみんなでワーッと盛り上がりたい人だろうと思うんですよね。プライベートで一緒に飲んだら、最強やろうなって。

MIKEY:私が0か100の人間なので「ちょっとお酒を嗜んで帰る」みたいなことができないんです。毎日のように飲んでいたら、「これはまずい」というところになってしまって。それで、今は禁酒中です。

つんく♂:いつまで続くかな(笑)。

MIKEY:(笑)。つんく♂さんは、東京ゲゲゲイをどうやって知ってくださったんですか?

つんく♂:スタッフの勧めがあって動画を見たときに「ああ、この踊り前に見たことがある!」ってなって。それが『ゲゲゲイの鬼太郎』のMVだったかな。

MIKEY:そうだったんですね。どういう印象でしたか?

つんく♂:僕らはいろんな振付師のダンス表現を見るけど、たとえば、女性のダンスと男性のダンスは見せるポイントが極端に違う。身体のラインもそうやし、筋肉のつき方も違う。だから日本の歌謡界では、男性の力強さや筋肉質な感じを強調した、EXILEとかLDH系のダンスが受け入れられた。最近はK-POPの影響で、女性らしさと男性らしさの“間”みたいなパフォーマンスもずいぶん見慣れたけど、東京ゲゲゲイってだいぶ前からそれをやってたんやなって。だから見せ方が個性的で面白いし、僕らが振付師の先生に「こうやってほしい」と要望を伝えても、生まれないアイデアが詰まってるよね。

MIKEY:わあー、本当ですか。

つんく♂:たとえば、サイドステップをオーダーして、そこに手の振りをつけるだけでドリフのように「オリジナル」になるやんか。そういうことができるかできないかが、プロとの大きな違いやと思ってる。作曲も同じで、よくあるコード進行だとしてもそのテンポやアレンジをどうするかで違う印象になる。インスピレーションの源は誰かのマネだったとして、ちょっと違うことを取り入れるだけで、新しいものに生まれ変わることを知っているかどうかがすごく大事やと思っていて、東京ゲゲゲイの表現にはそういう考えを煮詰めた要素だらけやなって思う。

MIKEY:そんな風に言ってもらえるなんて、とってもうれしいです!

つんく♂:できあがったダンスを見たら、「マネできそう!」とか「私も作れそう」とか思うかもしれないけど、この形を作るのは非常に難しいと思う。それは技術云々の話だけじゃなくて、アーティストとしてのクリエイティブ力というのかな。MIKEYさんにはそういうクリエイティビティをめちゃくちゃ感じるから、話したいなって思ったんです。

MIKEY:ありがとうございます。たしかに振り付けは、言語化できないんですよね。どうしてこういう踊りなのか、説明できないことが多々ある。それは私がものすごく感情的に、何かが憑依しているような様子でつくるんですよ。

こういう場所で、こういうビジュアルで、こういうメッセージを伝えようと踊るっていうイメージを持って振り付け作業を始めると、漠然とした「ここにある何か」を掴みたいって思い続けることになるんですよね。それって形がないし、精神論だったりするから、ものすごくエネルギーを消耗するんです。だから、振り付けは毎回大変ですね。ライブよりも体力がいるかもしれないです。

つんく♂:僕が曲をつくる時のようなエネルギーやろうな。

MIKEY:そうかもしれないですね。

つんく♂:ひとつ、ええなあって思ったのは、東京ゲゲゲイのメンバーって顔も含めて踊っているところ。パフォーマンスを楽しんでるってこともあるんやろうけど、振り付けは完璧に踊れていても、表情筋がダンスに追いついてないことって結構あるやん。

MIKEY:ありますね。

つんく♂:そこが完璧やった。モーニング娘。でも「仕上げは顔」ってよく言ってたし、そこを意識して振り付けしてもらってたけど、時間がないときはそこまでこだわることが難しいこともあって。そうすると、やっぱり「生き生きしてないな」って思ったね。顔も踊ってほしい、っていつも思う。

MIKEY:私も、顔はダンスの一部だと思ってます。肉体皮一枚だし、顔筋のディティールって細かいのでダンスと変わらない。東京ゲゲゲイのメンバーにも、表情のことは教え込んだ気がします。技術は練習すればどうにでもなりますけど、自分自身が「どう化けていくか」みたいなことは、ダンス表現においてとても大事なことで。動きよりも、そっちをメインにたくさん話した気がします。

「歌や踊りをやらない人生は生きられない」。MIKEYのこれまで

つんく♂:なるほど、おもしろいな〜。今日はMIKEYさんにいろいろ聞きたいことがあって。

MIKEY:ありがとうございます。

つんく♂:まず、芸能界で考えたら、突然的な出現で立ち位置を獲得したと思うんです。これが昭和なら、テレビ各局で突然的な立ち位置の人をみんなでいじって、たちまち時代の人になるんです。だけど、今はテレビがそんなことをやらないし、やれないし。なので、いつまでも素性が明かされないというか、謎めいた人のままでいられるじゃないですか。新宿界隈では、素性も含めて認知されていると思うけど世間一般はそこと違うわけで、知名度の実感はどうですか?

MIKEY:全然ないですね。ライブに人が集まっているのを見ると、「こんなにたくさんの人たちはどこにいたんだろう?」ってびっくりします。自分のことを知っている人がいると思って生きていないし、街中で声かけられることもほぼないので。

つんく♂:YouTubeとかでパフォーマンスを見たことがあっても、メイクをしていない状態だと気がつかないだろうしね。

MIKEY:そうですね。

つんく♂:いつ頃からエンタメの世界に興味を持ったんですか?

MIKEY:幼少期の頃から、歌って踊る人をマネするのが好きでした。中山美穂さんとか、中森明菜さんとか、主に女性のアイドルですかね。ベッドをステージに見立てて、彼女たちのパフォーマンスをコピーして、お母さんにお客さんになってもらって。妹のスカートを借りていました。小さい時から、そういう歌って踊ることに興味があったと思います。

つんく♂:でも、そこからプロというか、その道で食べて行こうって決めるのはなかなか難しいやん? どのあたりからプロになろうって思ったの?

MIKEY:高校一年生の時に、私が“女っぽい”という理由でクラスメイトからいじめられそうになったんです。まだ、いじめられてはいないけど、矛先が自分に向きそうだなと察して。それで、一大事になる前に高校を辞めちゃおうて思ったんです。「逃げよう」って。

中学生くらいの頃から、歌手になりたいって気持ちは漠然とあったので、高校を中退してからはいろんなオーディションを受けました。

つんく♂:結果はどうやった?

MIKEY:ぜんぜんうまくいかなかったですね。その間、アルバイトをしていたんですけどそちらもうまくいかなくて、大体クビになっていました。

つんく♂:それでも腐らなかったんやね。

MIKEY:歌や踊りの世界で生きていけない人生ならば、極端な話、生きなくてもいいかなくらいに思っていたんです。食べるためにこの道を選ぶというより、この道しか考えられなかった。アルバイトで、一般社会で生活することが難しいことは充分理解しましたし。

つんく♂:MIKEYさんはいくつやったっけ?

MIKEY:39歳で、もうすぐ40歳です。

つんく♂:モーニング娘。で言うと、矢口が同級生かな。

MIKEY:そうですね。

つんく♂:高校生のときは、芸能界だと誰が売れてた?

MIKEY:えーっと……モーニング娘。さんはいましたけど、安室奈美恵さんが人気でしたね。

つんく♂:まだCDも売れてたし、音楽番組もあったし。

MIKEY:そうですね。J-POP全盛期でした。

つんく♂:だから、目指したくなるのかもね。歌に自信はあったの?

MIKEY:自信があったかどうかはわからないですけど、「これしかない」という感じでしたね。歌と踊りしか、自分にはなかった。

つんく♂:おしゃべりも上手やし、芸人なんて道も?

MIKEY:あはは(笑)、芸人さんを目指したことはないです。

「本当の自分」を偽り続ける苦しさ

つんく♂:ちなみに歌とダンスはどっちが先?

MIKEY:ダンスが後なんですよ。19歳で、あるレーベルの10代限定オーディションを受けて、合格したんですね。育成期間中にボイトレとかダンスレッスンとかいろいろある中で、プロデューサーに「お前はなよなよしてて女っぽいからダンスで身体を鍛えろ」と言われて、ダンス教室に通い始めたのが始まりです。

つんく♂:そうやったんや。

MIKEY:今でこそ、ダンスには多様なジャンルがありますけど、私がダンスをはじめた当時は男がダンスをするならヒップホップしか選択肢がなかったんです。ダボダボのファッションを着て、イエーイってテンションで歌うみたいな。ダンスを通じて、男っぽいアティチュードを学んでほしいっていう事務所の思惑もあってか、すごく嫌いでしたね。その当時習っていたダンスも、無理やりやらされている感じも。

つんく♂:このパフォーマンス力で、小さい頃からダンスをやってなかったっていうのは驚きやね。クラシックとかジャズとか、素養はなかったの?

MIKEY:まったく習ったことないです。

つんく♂:でも、今みたいな踊りができるってことは、もともと運動神経がよかった?

MIKEY:いや、特別運動神経がよかったわけではないです。直接影響しているかわからないんですけど、小さい時に「日本囃子」を習っていて。笛や鐘といった和楽器や、ひょっとこや獅子舞といった舞踊を習っていたおかげか、ダンスを習得するのはわりと早かったです。

つんく♂:なるほど、そういうこと。結局、事務所はどうなったの?

MIKEY:逃げ出したんですよね、苦しくなって。

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