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つんく♂×evening cinema原田夏樹 「ビートルズが僕たちの音を作りだした」

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」、今回は新進気鋭のポップスバンド・evening cinemaのボーカリスト・原田夏樹さんと、彼が所属するレーベルを運営するグリッジ株式会社の籔井健一社長をお迎えします。

cinnamons × evening cinemaでリリースした楽曲「summertime」は、2020年夏にTikTok東南アジア各国での利用楽曲1位となり、「TikTok流行語大賞2020ミュージック部門賞」を受賞。またSpotifyが発表した2020年の海外で最も再生された国内アーティストの楽曲ランキングでは7位にランクイン。

世界的なシティポップブームの真っただ中にいる原田さんのディープな音遍歴から音楽制作話に、つんく♂も、思わず身を乗り出して自らのルーツを語りました。籔井社長との対談はこちら。
(文 田口俊輔 / 編集 小沢あや

つんく♂:初めましてなので色々聞きたいんやけど、原田くんはいつ頃、音楽に目覚めたの?

原田:5歳頃からピアノを習いはじめ、クラシック音楽を聴いたり弾いたりするのがずっと好きで。そこから「自分でバンドをやろう! 曲を書こう!」と本格的に音楽に目覚めたのは、大学に入り上京してから……と、20歳を過ぎてからでした。

つんく♂:5歳のころだとピアノのレッスンに行くの、嫌じゃなかった?

原田:ちょっと嫌でした(笑)。小学校のころは、周りのみんなが野球やサッカーをやっている中、「僕、ピアノやっているんだ」と公言するのが、なぜか恥ずかしかったんですよ。ずっと、こそこそ通っているような感じがありましたね。

つんく♂:こそこそだとしても、通うことは好きだったんや。

原田:はい。ピアノ自体は楽しかったので、好きでしたね。

つんく♂:きっと、ピアノに向いていたんやろうな。俺もエレクトーンを習っていたんだけれど、通うのが嫌で。積極的にピアノに行く男子はマジで尊敬する!

原田:小学校高学年~中学1年生ごろになると、ピアノとスポーツを両立していた子が、スポーツと両立できなくなって大体辞めちゃうんですよ。僕が通っていた教室も気がつけば男子は僕だけになっていて、それが一周まわって「おいしいな」と(笑)。

つんく♂:いいね~(笑)。それは女子の目を意識して?

原田:いいえ。僕はピアノと並行して野球もやっていて、中学のころはキャプテンもしてたんです。そこで「野球部のキャプテンという一見ゴリゴリの体育会系をやっているヤツが、実はピアノも弾けるの!?」というギャップを面白がられるんじゃないか? っていう。完全に下心ですね(笑)。

原田が作るポップスに山下達郎とビートルズの影あり

修正済み

つんく♂:今回、針尾ありさという歌手が活動12周年記念として「シティポップ」のカバーアルバムを作ることになって。その中に収録されるオリジナル曲を俺が作詞、作曲を原田くんにお願いしたんだよね。これまで、どれぐらいの女性歌手に曲を提供してきたんですか?

原田:それが4組ほどと、まだまだです。

つんく♂:ということは、自分たち以外の歌手に提供してきた曲より、バンドで作ってきた作品の方が多い?

原田:そうですね。バンドでは、リリースベースで30曲ぐらいでしょうか。提供というちゃんとした形で他アーティストさんに歌っていただくのは、針尾さんで10曲目ぐらいですね。

つんく♂:なるほど。きっと原田くんの活動の歴史の中で、手ごたえを感じた瞬間があると思う。まだ100%満足してはいないと思うけれど、どの辺から「自分の曲、はじけているなあ」と実感した?

原田:まさに、未だ「はじけている」という実感を得られていないのが正直なところで(笑)。ただ、4年ほど前に作った「summertime」という楽曲をリリースした後から、少しずつ作曲や編曲の依頼をいただくようになりました。今も曲作りは勉強中の身ですが、「summertime」を作った頃は、作曲のイロハもわからない状態で。手探り状態の中から生まれた曲が、こうして仕事の幅を広げてくれたのは嬉しい誤算でした。

つんく♂:「summertime」はソロ用として作った曲? それともバンド用に作った曲?

原田:cinnamonsというバンドとのコラボという形で作ったのですが、僕がコンポーザーという立ち位置で全部作りました。

つんく♂:この曲で「自分、ブレイクしたなあ」という手ごたえは、どう感じたの?

原田:いやあ、自分としては面白い曲ができたと思いつつも、発表時点で手ごたえは全くなくて(苦笑)。それが、一昨年末から「YouTubeやサブスクの再生回数が回りだした」と周りから言われて。自分が知らないところで、気づいたら人に聴かれていた、という不思議な状態なんです。

つんく♂:へえ! 結構バズるまで時間がかかっているんや。俺らのようなシングルを切っていた時代だと、「発売してから1~2年の間でどうやって聴いてもらえるか?」が大事で。それ以上経つとバズるって、演歌でもあまり考えられなかったな。ネットの時代に入り、プロモーターとか全く関係なく、3~4年かかって自然的に火が点く可能性がある。新しい時代に入ったのかもしれないね。

原田:(静かに頷く)

つんく♂:しかも。その流れが日本だけの話じゃないからね。そうした中、原田くんのやっているevening cinemaは、やっている音が「シティポップ」と呼ばれている。原田くんたち自ら「シティポップです!」と、押し出したの? 事務所のプロモーション? それともレコード屋や雑誌が「シティポップだね」と言いだしたのか。

原田:少なくとも、僕たちからは言っていません。僕らは、あくまで「普通のポップスをやっています」という気持ちなので。たぶん、僕の音楽ルーツが80~90年代のものがベースにあって、それが音から滲み出たものを感じ取った方に、たまたま「シティポップ」としてカテゴライズしてもらったという感じでしょうか。

つんく♂:80~90年代というと、原田くんの年齢だと後追いじゃない? 成長過程で聴いたのか、それとも大人になって後追いで聴いたのか。今はググればYouTubeに出てくるからすぐ勉強できるやん。

原田:育った過程で染みこんでいたと思います。両親が今年で還暦を迎えるので、80年代の音楽が直撃世代で。子どものころから自然に山下達郎さんやはっぴいえんどが流れていたので、その影響が大きいのかな?って。ただ一番は小学3、4年生ごろに車の中で聴いたビートルズに衝撃を受けて、本格的に音楽にはまったのも大きいですね。ピアノ教室ではクラシックをやりつつ、家で「Let It Be」をコピーしていました。

つんく♂:小学生でそれはすごいね。親御さんの影響、ビートルズときて、それからどういう音楽遍歴を過ごしたの?

原田:最初は洋楽ばかり聴いていました。ビートルズの流れからザ・ローリング・ストーンズやイーグルス……という流れで。中学生ぐらいで間口が広がり「色んな音楽を聴いてみよう!」と、ヒットチャートに入るようなJ-POPを聴いたり、古い邦楽も色々漁るようになったりして。一番大きかったのは、山下達郎さんが「BIG WAVE」という作品の中でカバーしていたザ・ビーチ・ボーイズ。それが僕の好きな音楽の形に上手いこと橋渡しをしてくれたのかな? と思います。

つんく♂:達郎さんは本当に洋楽を上手く、わかりやすく日本型に落とし込んて表現しているから、とっかかりとしてはすごく良いね。そもそも達郎さんの曲こそ、シティポップの代表だしね。

「好き」と言わずに「好き」の感情を伝える方法

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つんく♂:歌詞も書いているんだよね? ピアノ経験者なら、曲を聴けば「どうやって曲ができているか」と大体解釈ができるやん。ただ歌詞の世界って正解がない分、ちょっとまた解釈の仕方が違うやん。歌詞作りはどの辺に影響されていったの?

原田:実は思春期のころはメロディーばかり聴いて育ってきたので、歌詞を読んでその世界に影響されたり、歌詞作りについて深く考えたことがなかったんです。言葉を意識するようになったのは、本当に自分で作るようになってから。そのとき自分に「こうありたいな」という、ロールモデル的な型を示してくれたのは松本隆さんでした。

つんく♂:松本さん歌詞の、どういう部分に惹かれたの?

原田:文字を通して情景が見えてくる感じがするんですよね。特に松田聖子さんに提供していた一連の作品は、まるで言葉で絵を描いているようで。どうやったらこの感覚を身に着けられるのか? を、すごく考えていました。

つんく♂:もし原田くんが、これから人に歌詞の書き方を教えるとなったとき、松本隆さんや他の作詞家さんから学んだ秘訣を一つ伝えるとなったら、どうする?

原田:これ、すごくありきたりな言い方かもしれませんが……「好き」という感情を、いかに「好き」を使わずに表現できるか? を、一番頭の中に置いて歌詞を書こう、と言うのかなって。

つんく♂:ということは、原田くんが作る歌詞は基本ラブソングが前提ということ?

原田:そうですね。ラブソング以外、僕は作れませんね。

つんく♂:そうなると「好き」を使わずに表現するのって難しいでしょ? 原田くんの歌詞の中で、「好き」を使わずに「好き」という気持ちを上手く表現できたものってある?これは文字に起こさないとわからない、重要な話だと思う。教えて~!

原田:うわ~! 恥ずかしいですね(笑)! 僕の歌詞は、結構ナヨナヨした内容が多くて。

つんく♂:よう聞かれると思うけれど、歌詞に出てくる登場人物は原田くんのこと?

原田:そうですね、突き詰めると僕です。

つんく♂:つまりナヨナヨしている子は原田くんか。ナヨナヨしてんねや(笑)。

原田:はい、面と向かって「好き」とは言えないタイプなんですよ(苦笑)。それがコンプレックスで。「好きだ」とストレートに言えたらどれだけ楽なことか! その葛藤が、歌詞には表れていると思います。そういう意味で、「好き」を使わずに上手く表現出来たなと思うのは「わがまま」という曲の「言えない消えない悲しみも/あなたとなら分け合えるよね、確かに」というフレーズです。この一節は僕の思想と言いますか、スタンスを端的に表している言葉だなと思っています。

つんく♂:へえ! 「分け合える」が思想ということは、どういうことやろ?

原田:すごく単純に言ってしまうと、僕は「人と人は基本は他人同士で、結局根本は分かり合えない」と思っているんですよ。けれど、同じ経験ならば共有し合えるという気持ちがあって。

つんく♂:なるほど! 酸いも甘いも、ということか。

原田:そうです、そうです!

つんく♂:(「わがまま」を聴きながら)これは詞が先? 曲から作った?

原田:「わがまま」は、詞が先だった記憶があります。

つんく♂:曲の方、結構複雑なことをやっているやん。これで詞の方を先に書いちゃうんや。

原田:譜割り大まかなスケッチを最初に描いて作ったので、そこまで大変ではなかったですね。

つんく♂:歌詞にしたいことが湧き出てくるタイプなんや。

原田:(腕を組みながら)う~ん、どう……でしょう? 自分でもわかりません(笑)。

原田夏樹がつんく♂の名曲を徹底解説

――突然ですが、この流れで、原田さんがつんく♂楽曲で印象深い曲や思い出の曲、コンポーザーとして「これはすごい!」と思わず唸ってしまった楽曲について、教えて下さい。


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