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異色漫画家がアイドルを題材に選んだ理由 つんく♂×かっぴー対談
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異色漫画家がアイドルを題材に選んだ理由 つんく♂×かっぴー対談

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noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」、今回の対談ゲストは漫画家・漫画原作者のかっぴーさん。広告業界の裏側をセンセーショナルな視点で描いた『左ききのエレン』で注目を浴び、現在アイドル業界をテーマにした『15分の少女たち-アイドルのつくりかた-』を連載中(小学館『ビッグコミックスピリッツ』内)。そんなかっぴーさん、実は広告代理店勤務、WEBプランナー勤務を経て漫画家になったという異色の経歴の持ち主。思わずつんく♂さんも興味津々のかっぴーさんの素顔から、「アイドルの作り方」にまで迫りました。
<構成 田口俊輔 / 編集 ピース株式会社 / 写真 玉置敬大(note)>
(取材協力 note place

「広告代理店って高収入なの?」つんく♂の鋭い質問に、かっぴー困惑

――実は今回の対談、かっぴーさんからの「つんく♂さんとお話したい」というラブコールにより実現しました。かっぴーさんにとって、つんく♂さんはどういう存在ですか?

かっぴー:レジェンドと言ってしまうとおべっかになってしまいますが、本当にレジェンドですよね。小さい時からテレビで見ていた方なので、今、目の前にして「本当にいたんだ」と(笑)。僕の世代でアイドルプロデューサーと言われたら、真っ先に上がる方だと思っているので、こうしてお会いできて本当に嬉しいですね。

――熱烈なオファーをいただいたつんく♂さんは、どう思われました?

つんく♂:変わった経歴で、その辺がまず気になりましたね。

かっぴー:そうですよね、「大丈夫なのか?」と思うような、普通ではない経歴ですからね(笑)。

つんく♂:2回の転職を経て現在は漫画家をされていますが、現状の自分はズバリ成功者ですか?それともまだ未達成、夢の途中ですか?

かっぴー:あはは!いやあ、さすがプロデューサー、いきなり普段言わない言葉を引き出されるような、絶妙に踏み込んだ質問をされますね。そうですね…こう質問されると、反射的に「いやいや、まだです!夢はもっと大きいです!」と答える人が多いと思います。

けど僕は、割と満足しています。やりたい仕事を毎日やっていて、その仕事も特に売れるために無理しているわけでもない。「『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』のような大ヒット作を描こう!」というタイプでもないし、実際描けない。自分が描きたいものを描いて、好きなことをやってお金を稼いで幸せに暮らしているので、成功したかどうかで言うなら成功したと言いたいですね。

つんく♂:ということは、過去の仕事も頓挫(中座)したというより、一つひとつを一旦終了させて、次に進んでいっている感じなのかな?

かっぴー:そうですね。とはいえ、割とこれまでの仕事が今にも繋がっている気もしているんです。最初の仕事は広告のクリエイターで、デザインもやらなければいけない仕事なのですが、元々はアイディアの方をやりたくて代理店を志していたんです。

正直デザインは現在全くやっていませんが、アイディアの面では今の仕事にも繋がっているので、「(代理店時代と同じように)アイディアで食べていく人にはなれたのかな?」という気はしています。実際、「漫画を使って広告してください」と、漫画から派生した企業広告の仕事を現在もしているんです。そのおかげで年々この仕事が上手くなり、サラリーマン時代にできなかったことが今になってできている気がしているんです。

つんく♂:ちなみに、過去の職業の中で、収入は今が一番多いの(笑)?

かっぴー:そうですね、圧倒的に今の方がいいですね(笑)。

つんく♂:(笑)。そら、成功しているって言い切っちゃうね。

かっぴー:まあ、広告代理店時代は大してもらっていませんでしたからね。…やっぱブッコンできますね(笑)。会社を辞めて今の仕事を始める際に、「会社員時代の年収を下回ったら、この仕事を辞めよう」と思ったんです。なので、いつでも仕事を辞められるように、会社名を「株式会社なつやすみ」にしたんですよ。

つんく♂:なるほど!

かっぴー:「収入がサラリーマン時代を下回ったので、なつやすみ、終わります」というブログを、いつでも書けるように準備していたのですが、幸いそうなっていない現状です。

つんく♂:いや~、僕らからしたら代理店って高給取りのイメージがあるんですよ。

かっぴー:そうですね。高給取りだとは思いますが、今思うと別に…。ぶっちゃけた話、代理店の平均年収って1000万円前後で、役職がつくと上がっていくんです。確かに世の中的には高給取りですが、やはり会社勤めの中での高級で上限がある仕事。やればやるほど上がっていく仕事ではないんです。

つんく♂「夢を叶えるって、小学生の高学年くらいの時にぼや~っと考えていることが実は大事」

つんく♂:また転職する可能性はありますか?

かっぴー:「転職」という意味ではないかなと思います。例えば今、小説も書いていて、原作という形で文章だけ売り物にしてみようと考えているんです。他にもオファーがあれば、映画やドラマの脚本を書いてみたいと常々思っていて。あくまで「漫画原作者」という立場の中でメディアをピボットすることはあると思いますが、転職自体はないかなあと。

こう質問された裏を想像すると、今あまり稼いでいないと見られた、ということですよね(笑)。僕、また会社員に戻るのでは?と、未だによく思われるんですよ。羽振りが良いように見えない、貧乏性な顔をしているのかなって。

つんく♂:それもあるけれど、「飽き性なんかな?」って思った。また、もっと違う世界に行きたくなるのかなって。

かっぴー:あ~、なるほど!実は、小さい頃から絵を描いたり話を作るのが好きで、「漫画家になりたい」と思っていた時期があって。実際に漫画を持ち込むような行動には移してはいませんが、小学生の頃は漫画、中高生になると映画にハマッたりと、ずっと何かしらのフィクション・物語を見るのは一貫して好きです。いつか、そうした仕事に携わりたいとは思っています。

ただ、高校生の時に漫画家も映画監督・脚本家も「どこかに就職すればなれるというわけではない」と知ったわけです。普通の仕事の場合、なるまでの間にステップがあって、一度下積みをしなければいけない。なので、どこかの会社に入って下積みをすることもできない作家業の世界に入るのが怖くて。そこで思いついたのが、「広告代理店のクリエイター」という仕事なんです。

今人生を長い目で振り返ると、最初にやりたかったことをそのままやれているんです。実際、小学生の時、ノートに漫画を描いてクラスの友だちに回し読みしていて。今も『少年ジャンプ』に載っているような漫画とは違う完成度ですが、小学生の頃と絵柄的にも同じ漫画を描いていると思いますね。

つんく♂:広告代理店が通過点だったんやね。

かっぴー:そうなんですよ。やはり小学生の高学年の頃にある“初期衝動”を今も忘れられないんですよね。

つんく♂:わかるな~。結局、小学生の高学年くらいの時にぼや~っと考えていることって、実はめちゃ大事なんよね。

かっぴー:つんく♂さんは、小学生高学年の頃と同じ夢のままですか?

つんく♂:僕は6歳くらいの頃に歌手や芸能人を意識し始めたのは確か。

かっぴー:わぁ~、早いですね!やっぱそうなんだ。

つんく♂:西城秀樹さんが芸能人運動会みたいなので活躍しているのを見て、なんか一緒に出たいなって思ってね。僕もなかなかのスポーツマンだったの。

かっぴー:へぇ~、なるほど!歌手だけでなく色々とバラエティで活躍されるような方がいいと。すごいですね、テレビを見ていて「楽しそうだな」と思うことはもちろんありましたが、自分もその世界に入ろう!と6歳の頃は考えなかったなあ。やはりそう思う人じゃないとなれないんだろうなあ。

つんく♂:けど小学生の頃はドラマとか見て金持ちになりたいって思っていたので、医者とか弁護士とかイメージするやん。ただ実際の僕の頭脳では到底無理って、中学くらいでわかるので。その辺から音楽に集中していったかな。相変わらず陸上部はやっていたけどね。

かっぴー:僕も、高校生の時に自分の学力では…もちろん最初から医者や弁護士は考えもつきませんでしたが、「普通の会社員をやってもこの先が知れているな」と思ったんです。その時に、「自分は別枠で行かないとダメだ」と思い、美大を選んだんです。我ながらある意味で賢いなと思ったんですが、「良い美大に行けば将来、早稲田・慶応の人たちと一緒に働ける」と思ったんです。それで代理店に入りました。

つんく♂:すごい、それ!なかなか利口!

かっぴー: 当時から、自分の得意なところで勝負したかったというのはあります。

--早くから様々な人生経験を設計され、好きなことを形にしているかっぴーさんですが、現在の”得意・好き”なお仕事を始めてから、モチベーションが下がる瞬間や挫折を経験することはありましたか? 

かっぴー:「左ききのエレン」を描きはじめた当初は、ずーっと大きな反響が無い時期が続いたので、挫折もへったくれもなかったです。がむしゃらに頑張ってる時は挫折したりモチベーションが下がったりしないもの。大きな目標を達成した時、例えば「ドラマ化が決まり、放映された時」とか「クラウドファンディングで漫画日本一になった時」とか「100万部突破した時」など、「遂にやったぞ!」という時に限って、ガクッと落ち込みました。「もうこれ以上先に進んでも何もないんじゃないか、最高到達点が今なんじゃないか」と考えてしまって、落ち込みましたね。

ーーどうやって乗り越えたんでしょうか。

かっぴー:真夜中に「もう描けないかも知れない」と考えながら散歩していたら、広告代理店時代の上司と偶然すれ違って(笑)。会社も全然場所が違うし、夜中で人が歩いてない時間帯なのに。言葉にするとピンと来ないかも知れませんが、そういう時に限って、不思議な偶然が起きるんです。その度に「まだ、描かなきゃいけないんだろうな」と思ったんです。誰かに「描けよ」と言われてる感覚があって。

かっぴー「売れるデザイン作りは努力で補えない“カン”が重要」

つんく♂:僕は、絵を描くのはどうも苦手です。なので、絵を描けるだけでだいぶ尊敬しちゃうんですが、かっぴーさんへの「企画はおもしろいのにデザインが下手」という評価に対して、うまく説明してほしい。

「デザインの上手い・下手のボーダーラインや、デザインが上手い、ということはどういうことか?」知りたいです。僕もアイディアを音や映像に変える仕事をしていますが、映像にするにあたってアイディアを先方に伝えるのは、僕にとってはなかなか難しくて。ちょっとでも絵が描けたら、動画の説明もしやすいからって思って。

かっぴー:以前、別媒体のインタビューで答えたことをふまえてのご質問ですね、嬉しい。僕は会社員時代に「企画は面白いんだけれど、デザインは下手だね」と、ずっと言われてきました。

“デザインが上手い”というのは、ある程度のところまでは勉強すれば上手くなるんです。もちろん美大を出ているので、最低限のデザインの素養はあるのですが、やはり第一線で活躍している方と比べると、そこは長所にはならなくて。例えると、最低限泳げるレベルにはなったけれど、それで大会に出てレースに勝てるかどうかは別の話ってことです。結構努力はしていたはずなので、その“カン”が悪かった、センスが悪かったのかなと思いますね。

けど、だからこそ「才能」というテーマで、しつこく漫画で描けているのかなって。凡人の気持ちを痛いほど取材できたというか。人間って、ある程度のところまでは努力で行けるんです。ただ、99%まで努力して行ったからこそ、残りの1%の壁に届かないことがわかってしまう。

なので、アイディアを誰かに伝えるとか、プロデュース・ディレクションするための絵心は、訓練すればできると思うんです。そこから、それ自体が売り物や表現になるレベルに到達するには、“カン”の良し悪しの大きさはあると思いますね。

つんく♂:なるほどなあ。かっぴーさんは、子どもの頃、絵を描くことを内緒にしていたとも過去のインタビューで言っていましたが、それは「モテたい」の裏返しの行動だと思います。で、実際どの職業の時が一番モテていましたか?

かっぴー:アハハ!またちょっと性格の悪さが滲み出ていますよ(笑)。

つんく♂:(笑)。

かっぴー:冗談です(笑)。この答えは、やはり広告代理店の時代です。だから調子に乗るんですよ、広告代理店の人たちが。なんかあの人たちって「モテるぜ!」という顔をしていますよね(笑)。

つんく♂:(首を大きく縦に振る)

かっぴー:なんか自信がある顔をしているから、結果モテているんじゃないかなって。

つんく♂:職業を言うとモテるってことなんかな? モテたいから選ぶ職業なのかな?

かっぴー:やはり代理店は「モテたい」という人が多いですよ。合コンも多かったですしね。そういう意味で良い人ぶるわけじゃないのですが、今一番僕が命を懸けていることは「3歳の娘にモテること」なんです(笑)。一度ミスすると、女子って尾を引くんですよ。なので、なるべくミスしないよう、思春期まで好感度を高いまま維持したいなと、命を懸けて頑張っています。

--かっぴーさんにとっての、「デザインの上手・下手」とは?

かっぴー:「上手いデザインの定義」は、デザインを挫折した人間にとっては酷な質問ですね(笑)。明確に答えられていれば苦労してないと思いますが、本当に素晴らしいデザインは、時代の空気を反映してると思います。砕けた言い方をすると、良いデザイナーほど机でじっとしていなくて、飲み歩いたり趣味に没頭したりしている。現代の空気をめいっぱい吸い込みながら、デザインを吐き出してる感じがするんです。

そういった意味で、自分は空気を吸い込む余裕が無かったのかなと思います。漫画家になってからの方が、深く呼吸ができてる実感があります。

つんく♂、かっぴーが考える、生身のアイドルの“未完成”な魅力

――ここから今日の本題、「アイドルとプロデュース」の話について移りたいと思います。最初のテーマは「今、求められるアイドル」について。まず、かっぴーさんが『15分の少女たち-アイドルのつくりかた-』という、生身のアイドルに焦点を当てた作品を描こうと思われたきっかけは?

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総合エンターテインメントプロデューサー / TNX株式会社代表取締役社長。1992年、ロックバンド・シャ乱Qのボーカリストとしてデビュー。音楽家として作詞・作曲と、「モーニング娘。」をはじめとした数多くのアーティストプロデュースを手がける。