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「プロ」になるために必要なのは、たった2つの心構え。

マガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」のご愛読、ありがとうございます。自身のバンド・シャ乱Q時代を経てプロデューサーになったつんく♂。今回は、モーニング娘。をはじめとするハロー!プロジェクトのメンバーにも伝えているという、「プロとして必要な心構え」についてお届けします。
<文 つんく♂ / 編集 小沢あや(ピース) / イラスト みずしな孝之

シャ乱Qのメンバーとして、4年弱のアマチュア期間を経て、プロになりました。が、すぐプロとしてヒット曲が出たわけではありません。アマチュア時代にも、上手にやれない時期があって、ヒット曲が出せるようになってから学んだことがたくさんあります。

それらを自分なりに言語化し、モーニング娘。をはじめとしたハロー!プロジェクトのメンバーにも口頭で伝えてきました。今日は彼女たちに伝えてきた「プロの話」を、ここでもう一度整理してたいと思います。

ミュージシャンとしての重要な仕事として、曲作りがあります。曲が出来ると音源化するためにレコーディングをします。その後、世間にリリースする前後に楽曲プロモーションの為の取材やインタビューを受けるんです。

当然、僕も新曲やそのアルバムを引っ提げてのツアープロモーションの為に取材やインタビュー、ラジオやテレビ含めた、メディアに出ることがよくありました。

僕の場合は、ミュージシャン的な面だけでなく、テレビタレント的にもメディアに出ていたので、インタビューの種類も様々でした。音楽専門誌の取材もあれば、一般的な情報雑誌、映画やドラマ出演時の番宣的なインタビューなんかもありました。

どっちにしても作詞作曲やレコーディングをする、といったクリエイトな仕事ではなく、仕上がったものを宣伝するわけで。正直、当時の僕やメンバーからすれば仕事なんだけど、サブのお仕事というか。「おまけでしょ」みたいな気持ちでした。

その日その時の気分でベラベラ話す時もあれば、前日読んだ誰かのインタビューに感化されて、あんまり喋らずにカッコつけて上から目線の時もあったり。自分らより若いインタビュアが来た時には「自分、音楽わかってないやん」的な牽制も含めて、あえて確信には触れないようなおふざけトークだけで済ませてみたり。今の時代なら炎上していてもおかしくないような態度をとってしまったこともあります。

(正直、取材デーってのがあって日に5本も6本も取材を受けるんですよ。インタビュアーが変わるとはいえ、基本は同じような質問が並ぶわけです。「どんなアルバムですか?」「テーマは?」「レコーディング秘話は?」みたいなね。適当に答えてたと思うと今思えば完全にプロ失格です。はい)

さて、本題。最近の日本の芸能界のお話です。一般的にそのようなプロモーションインタビューで「今回のアルバムの出来はどうですか?」と聞かれると「完璧です!」「最高です!」という返事よりも「締切に間に合うか心配でした」とか「テーマが定まらず苦労しました」「まあ、92点だと思います」というような、若干ネガティブな発言で返している方、多いと思いませんか?

僕も映画の完成後のインタビューでは「謙虚でいなきゃいけない」という気持ちや、「演技は専門外なので、自分が完璧であるかのような表現をしてはいけない」という思い込みがありました。「とても良いですよ!」「楽しい映画です!」という表現が、なかなか出来ませんでした。

僕だけがそうだったわけではありません。「春の番宣スペシャル!」みたいな番組に出たときも、先輩俳優の皆さんも意外に謙遜タイプが多かった印象です。「僕なんかまだまだです」「今回のドラマも脚本に助けられました」というような一歩下がった発言が記憶に残っています。

日本人らしくとても素敵な謙虚さなんですが、これって日本を離れると、伝わらなくなるんですね。海外だと「あ、何? じゃあんまりよくないんだ」「本人が92点っていうくらいだから完璧じゃないんだね」というような感覚です。

お隣の国、韓国でもこんな経験がありました。レストランでの食事後、通訳とガイド兼ねた現地のスタッフさんに「そろそろ行きましょうか?」というような言い回しで伝えると「行くか行かないかは、先生(僕のことね。韓国ではよく使う言葉のようです)が決めてください」と言われました。

「え? だから『そろそろ行かないか?』って言ってるやん!」って思ったんですが。すぐに「あ。そうか、相手に委ねた言葉になってるからだな」と気がつきました。「さ、行きましょ!」「僕は次の場所に行きたい。ここを出たい」とはっきり言うべきなんだな。そう思ったわけです。

そういう視線で洋楽アーティストのインタビューや記事を読むと、「みんな自分をちゃんと肯定しているし、したいことをしたいとハッキリ伝えている」と感じたのです。

今はアメリカに住んでるので余計にそう思います。遠慮してると順番は回ってきません。

日本のように、誰かが平等に配ってくれたりはしないのです。率先して並ぶ人は何回でももらうし、黙って待っていると「要らない人」と思われます。「そうだよな、生きるってそういうことだよな」と本気で思います。

さて、モーニング娘。時代を振り返ってみましょう。やはり彼女たちも日本の文化圏で育ってきたので、「謙虚」という感覚を持っています。「私なんて別に」「私みたいな子が」というような気持ちですね。

この感覚はとても大事です。ただ、僕は「舞台に上がった時や、楽曲のインタビューを受ける時は100%の自信をもって、自分をアピールしてほしい」と伝えてきました。

6期あたりが入ってきた頃に講義した記憶があります。「ノートの右に自分の好きな部分や良いところを、左側に自分の嫌いな部分や良くないところを書いてみて」と伝えて、その場でやってもらいました。

すると、みんながそうとは限らないけど、良いところを書くより、良くないところを書く方がリズミカルにペンが進んでるように見えました。

良いところを書き出すのってなんとなく恥ずかしいし、とくに「この後、もしかしたらつんく♂さんが読み上げるかもしれない」「書いた内容がみんなに知られてしまうかもしれない」と思うと、躊躇する部分もあると思います。

でも、僕は言ったんです。「みんなが自分の良いところ、良くないところを知ってることはとてもいいことだ」と。そして、「でも、プロとしてこれからも人前に立ちたいのであれば、この左側の部分(自分の良くないところ)を人前で宣伝する必要はないと思う」と。

謙虚な姿勢って他から「頑張って!」「え〜そんなことないよ〜」って言ってもらえそうなある種、プロとしての「逃げ」な部分でもあると思うんです。

当時の僕もそうでしたが、謙虚な姿勢をとって重要な攻めなきゃいけない場面から逃げてるな、サボってるなって考えることが出来ると思うんです。これではプロが成立しませんよね。

プロのお笑い芸人やタレントさんは、この自分のマイナス部分や失敗談を「笑い」や「感動」に変えて、プラスにする芸や技を持っています。そういう意味でのトークのプロです。

しかし、少なくとも当時の彼女たちにはリスクを伴うトークにチャレンジしたり、自分を卑下したり必要以上に謙虚でいるよりも、楽しさ、元気、笑顔、やる気、頑張っている姿をお届けするのが、求められてることへの「プロ」としての答えである、と僕は判断したのです。

彼女たちにもわかりやすく説明するために、簡単な2つの例を出しました。

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