つんく♂流、作曲の心得 〜秘伝のタレ編〜
これまでに約2000曲の作曲を手がけてきたつんく♂。長年音楽家として活動してきて辿り着いた、「作曲の心得」を書き下ろしコラムでお届けします。
<文 つんく♂ / 編集 小沢あや(ピース) / イラスト みずしな孝之>
今日は作曲の心得、をテーマにお届けします。まずは、曲作りにおいてよくある質問から並べて行きますね。
「作曲って、どうやってするんですか?」「曲を作ったんですが、合っているのかわかりません。どう思いますか?」「曲を作るんですが、なんだか似た曲ばっかりになってしまいます。どうすべきですか?」「曲を書いてると、行き詰まってきて嫌になります」「曲を書かなきゃいけないのに、スイッチが入りません」などなど。そのあたり、具体的に答えていきましょう。
さて、曲をどうやって作るか。
定義は本当に難しく、音楽大学で学ぶようなフルオーケストラのフルスコアを書くとなると、様々な知識が必要になります。楽器の種類だけでなく、各楽器の出せる可能な音域を知っていないと書けません。今回のnoteでは音楽的なそういったロジック面ではなく、作曲にのぞむ考え方や具体的なプロセスをお伝えしようと思います。
正解は自分が決める
まず知っておいてほしいことは、「どう作ってもいいが、出来上がったものが曲である」ということ。
日本の歌謡界においては、基本的には主旋律を考えた人が「作曲家」とされます。つまり、曲を書く人が「これがメロディーです!」って言い切ったら、どんな内容でも、それが「曲」です。自分を信じること。そこが大事です。
悩んでも、一旦仕上げることが大切
そして、作詞の時もお伝えしましたが、作曲にしても、歌詞を書くにしても、作者である自分が正解です。ということは、裏を返せば自分で「はい、完成!」って思うまではいつまでも終わりがない作業となります。
なんとなく出来上がってるけど、ほんの一箇所、ワンフレーズが決められない。繰り返すべきか、別のメロディーにちょっと変えるか……などと悩んでいると、永遠に楽曲制作の終わりは来ません。何度も言いますが、大事なのは一旦「終了ポイント」を自分で設定して、箸を置くことです。
僕もヒット曲が書けるようになる前は、なかなかできませんでした。でも、今考えると全体の尺もどれくらいになるかも見えないのに、曲途中のフレーズをずっと作り替えているというのは時間がもったいないです。
木を見て森を見ずじゃないけど、途中のワンフレーズのメロがちょっと合ってようが、違おうが、実は曲全体にはあんまり影響していない……なんてこともたくさんあります。
たしかにほんのちょっとした「枝」の部分で曲全体の見栄えが変わることもあるので、その辺は腕。ただ、初心者としては、途中の「枝葉」の部分で足渋みをするくらいならとにかく全体を一旦仕上げて、箸を置く。これが大事です。
で、そこから翌朝聴き直せばはっきり答えが出ることもあるし、誰かに聴いてもらって感想を聞くこともできるし。半年、1年と眠らせた後に味が出てくることもある。でも、とりあえず仕上げないと、どうにもこうにも先に進まないわけです。口が酸っぱくなるほど言いますが、とにかく一旦仕上げることを心がけてください。
なぜ似たような曲ばっかり作ってしまうのか
最も多い悩みが「似たような曲ばっかり作ってしまう」。テーマやクライアントからのお題がはっきりしていない時に、「時間があるし、なんか曲作っておこう〜」なんて時に作る曲って、なんとなく似てしまいます。これ、僕もよくわかります。
自分の中で書きたい曲が頭にぼんやりあって、それを消化するまで無意識のうちになんども呼び起こしてしまうんだと思います。違う曲を書こうとして、出だしは全然違う感じで始まっても、Bメロとかサビで結局同じようなフレーズになってしまう。
「いい曲を書きたい」「褒められたい」「バズりたい」という気持ちはわかります。世間でヒットした賢そうな曲に憧れるのもわかります。いろんなコード展開をたくさん使って、おしゃれ的であったり、メロディアスであったり、そういうのにチャレンジしがちです。
僕もシャ乱Qでミリオンセラーを数曲続けてヒットさせた後も、褒められたい欲求が膨れ上がり、自分の実力以上に「良い曲を書きたい」「俺ならできるはず」「天才と呼ばれたい」という気持ちで、心がいっぱいになってた時期があります。
アルバムではいろんな曲への挑戦も出来ましたが、シングル曲を書くとなるとツボにハマってなかなか抜け出せません。僕も同じような曲をたくさん作ってしまっては、ボツになっていました。自分でもボツにするし提出してもスタッフやメンバーからもいいリアクションをもらえません。なんとなく頭の中に完成形としてのざっくりとしたイメージがあるので、無意識のうちに毎回そこを目指してしまいます。いろんなパターンで探るけどなんか釈然としない。箸を置くためにもなんとか仕上げるけど、力も知識も足りないのでふんわりした感じになってしまってたわけです。
今思えば、「雰囲気もニュアンスもいい感じ!」なようにも見えるけど、実際はなんか軸がなく、プワプワしてて、つかみどころがなく、「何がしたいの?」感が満載だったんだと思います。で、納得いかないのでまた作り始める。同じ壁にぶつかる。似てる雰囲気になる。で、また作り始める……を繰り返してしまうわけです。
賢そうなコード進行。おしゃれなテンションコード。難しそうなリズムパターン。こういうのを曲に起用しようとして、蜘蛛の糸に絡まれるように身動きができなくなるんです。
天才である、という思い込みを捨てよう
noteでは何度も話してきましたが、まず、自分の天才的能力への希望は捨ててください。無才能と思えという意味ではありません。一旦「すごいこと(ふんわり見えてる理想や意識している作品みたいな感じ)」へのチャレンジは諦めることです。
今でこそ、上記のように思えますが、当時の僕も、頭を切りかえるのはなかなか難しかったです。「シングルベッド」「ズルい女」「MyBabe 君が眠るまで」とミリオンヒットが連発してた当時は、僕も勢いに乗ってたので、レコード会社のスタッフさんたちも、当時の僕に「なんか違うよ」「よくないよ」「書き直したら」なんていう人は、ほぼいなかったように思います。
無意識だったけど、きっと俺からも「文句いうなよ〜」「意見するなよ〜」オーラ出しまくってたんでしょう。「俺が今、作ったものが全てなのよ!」みたいな感じでね。
でもそうじゃない。もっともっと学ぶべき点はたくさんあった。表ヅラは「なんぼでも曲書くで〜。俺が書いたらヒット曲やで〜」みたいに見せつつ。本心ではどんな曲を書けばいいのかって、いつも不安でした。最新の洋楽のCDを山ほど買ってきて聴いたり、ミュージックビデオ観たりしてね……。
ロック畑の人間がかっこいい曲を作るカギ
そんな頃に当時のシャ乱Qの音楽プロデューサー瀬戸由紀男さんより、こんなアドバイスを受けました。「つんく♂、コードをたくさん使って曲作るのも、時間と知識さえあれば、いつでもきっとやれるよ。でも、俺たちはロック(畑)なんだから、コードなんて3つか4つでいいんだよ。それでもかっこいい曲が書けるのが、本当のメロディーメーカーだと思わない? コード2個くらいで作れたら、めちゃかっこいいよね」と。
お〜!
目から鱗が出まくった瞬間でした。
そうだ! たしかにそうだ。思えばロックに目覚めたあの頃、聴きまくったロックはスタンダードなほど好きでした。「Rock Around The Clock」「Johnny B Goode」「Be-Bop-A-Lula」「Long Tall Sally(のっぽなサリー)」「LET'S SPEND THE NIGHT TOGETHER」……例を上げるとキリがないほど、3コード的なロックンロールナンバーのヒットが、ゴマンとあります。
これだ!
コード進行や出てくるコードは3つ4つだけど、どの曲にも真似したくなるような癖のあるメロディがあって、しかも、ギターとドラムのユニゾンやキメの多い目のアレンジ。楽器やってるヤツなら、その辺も真似したくなる感じ。
全然賢そうじゃないけど、でも実際研究してみると、アイデアの宝庫です。3コード合戦の中で「俺らのロックは他とは違うぜ!」と言わんばかりにアイデアの戦いはきっと当時の音楽水準をグングン上げていったんじゃないか?
それから、改めて3コードのヒット曲をあらためて聴き直しました。長調のヒット曲は多いんです。明るいし楽しいし盛り上がります。
当時のシャ乱Qはちょっと影がある、悲しいメロディー。カラオケファンも多かったんです。そこで考えました。「なるほど、ド明るいメジャー曲より、切ないマイナーなシンプルロックでヒット曲って日本に何がある!? なかったら、俺が日本で最初の発明者になるかもしれない!!」くらいに思って、マイナー調のコード数の少ない曲を探し始めます。
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