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つんく♂と映画監督タカハタ秀太が振り返る、モーニング娘。誕生前夜。

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」、対談企画第11回目ゲストは映画『鳩の撃退法』が公開中の映画監督、タカハタ秀太監督です。『ASAYAN』や『つんくタウン』のディレクターをつとめ、モーニング娘。「LOVEマシーン」や太陽とシスコムーン全曲のMVを手がけるなど、共に全盛期を駆け抜けてきた盟友です。前編は、タカハタ監督の近況から懐かしい『ASAYAN』時代の話までたっぷり伺いました。
(文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あや

初対面は25年前の「ASAYAN」。つんく♂とタカハタ監督、久々の再会


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タカハタ:つんく♂さん、お久しぶりです!

つんく♂:ご無沙汰です!タカハタさん痩せた〜。僕たちが初めて会ったのが、25年くらい前か。

タカハタ:そうですね。『ASAYAN』(テレビ東京)でモーニング娘。が結成したのが1997年で、その前から企画会議やオーディションでご一緒してましたもんね。僕が総合演出で、つんく♂さんはプロデューサーとして表に立ってくださって。前番組の『コムロギャルソン』(テレビ東京、小室哲哉プロデュースのオーディション番組)の時は、すごい大変だったんですよ。突然、「今からロサンゼルスにコメント撮りに行ってこい!」みたいなことも平気であって(笑)。だけど、つんく♂さんの時はやりやすかったです。

つんく♂:僕は基本、東京にいたから撮りやすかったでしょ(笑)。久しぶりに、タカハタ監督の近況を聞けるのは嬉しいです。さっそく、映画『鳩の撃退法』公開、おめでとうございます!

タカハタ:ありがとうございます。感染対策を取りながら、ぜひ劇場で楽しんでもらいたいです。

つんく♂:映画を撮るのはいつぶりですか?

タカハタ:短編はコンスタントに撮っていますし、超低予算の長編『原宿デニール』は4年前に撮っています。

つんく♂:4年ぶりで、なかなかの大作ですよね。


タカハタ:そうですね。最初は、電通のプロデューサーから原作を教えてもらって、すごく面白かったんですよ。だけど、構造が複雑で、話の枝葉もいくつもに分かれていて、さらに結末がない。天才作家の津田(藤原竜也)が書く小説が、次第に現実とリンクしていくという現実と虚構が混在するすごく難解な作品なんですけど、僕はとても惹かれていました。そこで松竹さんが配給に手を挙げてくれたおかげで、映画製作が具体的に動き始めたんです。まず脚本作りが大変で、50稿くらい書き直しましたね。難解な作品をエンタメに昇華するには、簡略化すればいいわけではないから。原作の難解さを残しつつ、どうやって万人の人に楽しんでもらえる作品にするか、という調整を重ねました。

つんく♂:結末がないのは大変だ……。その段階で、キャストは揃っていたんですか?

タカハタ:いや、主役に声をかけようとしていたくらいですね。主要キャスト5人(藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司)が集まるまで結構時間はかかったので、僕は脚本の改稿を重ねていました。

つんく♂:なるほど。

タカハタ:コロナ禍中でうちの妻が韓流作品にハマって、韓国語の勉強も始めて、字幕なしでも観られるくらいになっているんですよ。この間、WOWOWで僕が監督した『ホテルビーナス』が久しぶりに放送されたんですね。つんく♂さんも少し出てもらっていた作品で。いま観て、日本人が一生懸命練習した韓国語はどうだったのか、妻に確かめてもらったんですよ。そしたら「剛くんがいいのと、つんく♂さんが意外といいのよ! あの人はやっぱり耳がいいんだ」って褒めてましたよ。

つんく♂:この年齢になっても褒められると嬉しいですね(笑)。あの時「紅茶」というセリフがなかなか上手に発音出来なくって、何回もやり直しましたね。

タカハタ:そうそう。その後の「ビーナスブレンドしかないんだろ?」っていう発音がネイティブみたいだって言ってましたよ。しかし、あの時はよく映画に出てくれましたよね。

つんく♂:あの頃は映画に出てみたかったし、本当は映画を作りたかったんですよね。

タカハタ:そうですよね。最近は、TOKYO青春映画祭とか中2映画プロジェクトをやっていますけど。

つんく♂:あ、TOKYO青春映画祭、審査員ありがとうございます! ただ、『ASAYAN』も『つんくタウン』(テレビ東京)もそうですが、ハマり始めると僕の性格上絶対にハマりまくるので、破産か体壊しそうやな〜って思ってました。それでなくても時間がなかったのに。

タカハタ:想像できますね(笑)。この間、つんく♂さんがテレビで対談されているのを見ていたら「街を作りたい」って仰ってましたけど、あの当時もう作ってましたからね。

つんく♂:「つんくタウン!」たしかに! あの頃からそういう発想してたかもしれない。

タカハタ:そういえば、林修先生との対談見てて思い出したんですけど、今となっては有名になった芸能人も、結構いろんな人がモーニング娘。のオーディションを受けてくれてたな〜って。若槻千夏さんとか、倖田來未さんとか。それと、「LOVEマシーン」の歌入れする前にギリギリまで歌詞を書いていらして、「みんなも社長さんも」のところをどう思うか聞かれて「いいですねー!」と答えた記憶がありますね。

つんく♂:そう、とにかく時間がなくて、自分で温め直してる時間なかったから、タカハタさんとかアレンジャーのダンス☆マンに「どう!?」ってパって見せて、最初のリアクションでOKかどうか判定してたなぁ。

音楽とキャスティングにつんく♂興奮。「全体的に色気とロックを感じる作品やった」

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つんく♂:映画、めちゃくちゃ面白かったですよ!

タカハタ:ありがとうございます、嬉しいなー!

つんく♂:これまでいろんな映画を観てきたし、タカハタ監督の作品は好きでいろいろ観てきたんですよ。その中でも特に『ホテルビーナス』は気合いの入った作品だったと思うんです。あれから17年経って、どんな作品を作ったんやろと。SNSで普段のつぶやきはチェックしていたけど、いざ作品となると「正直観るの嫌やな〜」と思ったんです。

タカハタ:ああ、わかります。

つんく♂:一時代を一緒に作ってきた仲間が、「あれ?こんなしょぼい人やったっけ?」と思うのも嫌やし、「我を通してガンコになってるな〜」ってなるのも嫌だし。なので、まじ観るの、めっちゃ緊張しました。手に汗かいてたもん。

タカハタ:わかります、わかります。昔の仲間が落ちてたら嫌ですもんね。

つんく♂:当の『ASAYAN』時代に一緒にいろいろ作っていた仲間とは、時々会ったり仕事することもあるんですけど、タカハタさんとは全然会えてなかったですよね。だから、どんなものを作るのか全然想像できなかった。なので、映画やけど、ページを一枚一枚めくっていくような感覚で観てたんです。なんちゅうか、ページをめくるごとに自分が前のめってるのがわかる感じ。「ほう」「はいはい」「それで!?」みたいな。吸い込まれていったね。自分がワクワクしてることが本当に嬉しかった。登場人物が多いから、僕は相関図を見ながら「この人はこう」「この子はこの女優」って確認しながら鑑賞して。なんやったらその女優データも検索してね。「今まで何をしてたらこの芝居が出来るんや!?」とか勝手に考えながらね。タレントの生い立ち見えるとタカハタさんの心もちょっと見えるやん!? 「なんで選んだんやろ」とかも思うし。なので、まじドキドキとワクワクしながら観ましたね。

タカハタ:ありがとうございます。つんく♂さんらしい、モノの見方ですね。もちろん相関図を見たらわかりやすいですけど、映画館だとより集中して映画を観られる環境なので物語に引き込まれるんじゃないかなって思います。ただ、試写ではわかりにくいと言われることもあったようで(苦笑)。原作には、結末が書かれていないんですよ。それを、最後までどうやって気持ちよく騙し切れるのか、ということばかり考えていて。

つんく♂:なるほどね。それも確かにそうだ。

タカハタ:あとは、音楽がキーになっていて、これまでの映画でもテレビドラマでも音楽はすごく大事にしているんですよ。ただ、映画だと既存曲を簡単に使えないんですね。どうにか最後まで気持ちよく終わらせたいと思った時に、絶対に音楽が大事だと思ったんです。最後で、どんな音楽が流れたら観てくれる人が納得してくれるか考えた時に、井上陽水さんの「氷の世界」だって思って。

つんく♂:それは、ほんまにずるいと思いましたよ。正直本編終わって映画のエンドロールが流れたところで、気を抜いた。「終わった〜!」って感じで。その瞬間「え? 何この曲」ってなって。「氷の世界」ってのは当然歌メロ入ったら確定するので「わ」って思うんですが、ただ、「これ井上陽水バージョンじゃないよね。」「実際よりテンポ速い?」「このリフなんだろ」「今の作品? 昔のもの? カバー? ライブVer? 何? 何? 何?」と頭の中がクエスチョンだらけになったんよね。なんちゅうか、物真似じゃないけどいい感じに似てる。で、ちょっとイラってなって、即座に「映画のエンディングに関してすぐ調べて!」ってスタッフにLINEしたくらい。

タカハタ:プロデューサーに相談した時は、「使えるわけないですよ」って感じだったんですよ。オリジナルはダメでもカバーで使えないか相談してもらって、なんとか今の形になって。劇伴を誰にするか決めてなかったんですけど、普段映画音楽をやっていない人にアプローチをしたいと思ったら、ご縁があってKIRINJIの堀込高樹さんにご快諾いただけたんです。編集がある程度できてから音楽のやりとりをしたんですけど、初めから「氷の世界」のカバーの相談はしていたんですね。出来上がったものを陽水さんサイドに見せたら、「アレンジがかっこいい」と言ってくださって、ご本人も快諾してくれて。他の音楽だと、途中に風間くんが手を叩くところで「リベラ」という少年合唱団の曲が流れるんですけど、ト書きだけ読むとドン引きされると思ったんですよ。

つんく♂:どうして?

タカハタ:こんな都合よく物事が進むのか、肯定していいのかと。ただ、あのシーンだけは一瞬ファンタジーになるんですよ。撮影する前にあの曲がラジオから流れてきて、この音楽を使えば、どうにか逃げ切れるんじゃないかと思ったんです。大事なシーンは音楽で逃げ切りました。

つんく♂:だからか、作品全体がロックなんやね。こういう言い方がいいかわからんけど、僕の青春時代の好きだった映画、ショーケンとかあの時代が持っていたアナログっぽい、フィルムっぽいリズム感とかロックを感じました。それの答えが「氷の世界」のリフ。ここにたどり着くんかと思って、何度か観ちゃいましたよ。

タカハタ:わあー、そうですか。堀込さんよろこぶだろうな。

つんく♂:もし、あの音楽を僕に頼んでたら、もっと今っぽく仕上がってたと思う。

タカハタ:そうかな(笑)。頼んだらやってくれますか?

つんく♂:いや、やりますよ。だけど、あんな風にはできないやろうな。「氷の世界でお願いします」って指定されてたらそれなりに探ったやろうけど、お任せだった場合はああいう尖り方はさせなかったと思う。考えすぎて、ああならないやろうな。もっと100点取りに行ってしまうだろうなって。

タカハタ:数年前に井上陽水さんのトリュビュートアルバムが発表されたんですけど、「氷の世界」は何故か誰もカバーしてないんですよね。

つんく♂:なるほど、それはきっと、あの曲にサビがないからだ。やる側からすると悩んじゃうのかも。どうせカバーするなら歌い上げたいもん、歌手なら。だからきっと選ばないのかもね。その分あの曲はイントロリフとAメロがめちゃくちゃかっこいい。洋楽っぽいんですよね。

タカハタ:じゃあ、最後のエンディングでやられた感があるんですね。

つんく♂:めっちゃありますよ。

タカハタ:やった!

つんく♂:そう思って映画を振り返ると、とにかく冒頭からずっとリズムが良い。で、倉田さん(豊川悦司)が、そのうちもっと悪人っぽくなるんやろ! って展開読んでたらそうならずで。でも、よく考えたら倉田さんで展開させたら、映画の軸がぶれてくるからそうならないのは当然で、つまり主役を食ってしまう。で、同じ意味でも秀吉(風間俊介)の塩梅が絶妙だったり。こちとらやられっぱなしです。

タカハタ:風間くんがああいう役を演じるのは、見たことがなかったですよね。彼が秀吉のような酷いセリフを言うのを見てみたかったし、藤原くんもシェイクスピアとか演じるような人ですけど、ああいうクズな役をやってほしいと思ったんですよね。イメージと全然違う役を。原作のイメージとぴったりなキャラクターって、豊川悦司さんと岩松了さんくらいだと思います。豊川さんはいつかご一緒したいと思っていて、自分から事務所に電話しましたもん。

つんく♂:脱線してマニアックな話をさせてもらうと、周りのキャストがずるい。特に女性陣。たとえば土屋太鳳ちゃんはちょうどええキャラクターなんですけど、秀吉の奥さんの佐津川愛美さんと西野七瀬さん、森カンナ、石橋けい、安藤聖、とか要所要所に出てくるサブキャラのみなさんがめっちゃ艶っけがあるんです。こんな映画あるかなーと思って。

タカハタ:へぇ〜、そうきましたか(笑)。

つんく♂:みなさん普通に演じてるだけなのになんかエロい。なんちゅうのかな? 僕が高校生の頃、レベッカのNOKKOさんがライブで歌ってるだけやのになんかセクシーだったあの感じ。それがロックやと思うんですよ。なので、これがテレビのサスペンスドラマじゃなくてガチ映画だなと思うのは、そういう角がいっぱい立ってるから。

タカハタ:そのキャスティングは自分で選んだので、そこを褒めてもらえたのは嬉しいです。

つんく♂:いっぱい知り合う中で、どうやって選んだんですか? 年齢も役とちょうど合っている、いい女優さんばっかりやった。

タカハタ:過去にご一緒したことあるのは、佐津川さんだけですね。

つんく♂:声がいいよな。

タカハタ:声もですし、何かといいんですよ。あとの方々は、他の作品を見て当てはめた人もいます。

つんく♂:石橋けいさんの、あの大人な色艶感がちょうどいいなーって。若い頃の顔はシュッとしているけど、何年か経った後にここに連れてきたことがすごいし、どうやって決めたのかめちゃくちゃ気になりながら観てましたよ。

タカハタ:メインの5人は、順番に決まっていきました。メインの周りを支える役というのはかなり大事で、僕の中ではお芝居も合格ラインでいてほしいし、少しの出演時間でも光る人を選びたかったんですよね。それで、探りながら決めていきましたね。

つんく♂:男性で言うと、駿河太郎とハマケン(浜野謙太)のチンピラさはめちゃくちゃよかったです。特にハマケンの立ち向かっていく感じがリアリティあるわーと思って。意外とああいうことやってくれる役者っていないですよね。

タカハタ:そうですね。キャストにはほんとに恵まれました。

つんく♂:ワクワクしましたよ。

タカハタ:よかったです。ミッキーカーチスさんはどうでした?

つんく♂:ミッキーさんとリリーさんのポジションは、いいですよね。普通の老人では面白くないやん。ここにもロック魂があって、例えばジャスに置き換えると、めっちゃ歌うまいアーティストがいて、ドラムギターベースが決まってるところに、ベテランのめちゃくちゃうまいトランペットやサックス奏者を連れてくる、みたいなイメージです。

タカハタ:面白い例えですね。ミッキーさんは合間にくだらないジョークばっかり言っているのが最高でした。

つんく♂:結果的にR指定のかかるシーンもなく、エロもないのに、色気が妙に残る作品でしたね。

タカハタ:面白い視点ですね(笑)。きちんと観てくれていて嬉しいです。

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つんく♂:タカハタさんと本格的にご一緒したのは1997年。モーニング娘。がデビューした『ASAYAN』でしたね。前番組の『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京)放送時から存在は知ってたけど、僕らはまだ大阪にいたし、ずっとライブばっかりやってて番組はほとんど観れてなかったんですよ。東京に来てからちょっとずつ音楽番組に出演して、いろんなテレビ番組に触れて、タカハタさんの番組ももちろん観てました。で、『コムロギャルソン』を放送するようになって、オーディション番組のスタイルになったんよね。

タカハタ:そうですね。1時間あるうちの前半が『浅草橋ヤング洋品店』で、後半が『コムロギャルソン』でした。僕はそこから番組に絡むようになりました。その後に、1時間まるっと『ASAYAN』になりましたね。

つんく♂:いろんなところで答えたけど、僕はちょっと腰を下ろしたくらいで、あそこまでどっぷり関わるつもりはなくて、「視聴者が楽しんでくれる機会が少し作れたらいいな」くらいに思ってたんよ。タカハタさんはどの辺から「つんく♂やシャ乱Qを巻き込んだろ」という意識が湧いてきたんですか?

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