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「アイドルソングを作っちゃだめ」 大久保薫とつんく♂が語るハロプロの未来

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」、今回の対談ゲストは、作曲家・アレンジャーの大久保薫さんです。後編では、つんく♂が『One・Two・Three』での大久保さんの変化に注目。また、モーニング娘。の新曲についての話や新たなプロジェクトの構想が飛び出すなど、この対談をきっかけに、ふたりのタッグはさらなる進化を遂げそうです。前編はこちら。
<構成 山田宗太朗 / 編集 小沢あや(ピース株式会社)

V時回復期の突破口『One・Two・Three』はどのように生まれたか

 つんく♂:そんなふうに話題を作って、もう1回『グルグルJUMP』('09)の伏線でスマイレージ『ドットビキニ』(’12)があって。「大久保、こういうポテンシャル持ってんねんな」と思ったのは確かだね。でも、まだ爆発はしていない。

大久保:なかなか爆発しないんですよね(笑)。けど、頭の片隅には僕の名前を置いておいてくれたんですね。

つんく♂:そう。「アレンジで困ったら大久保」とか「こういう曲は大久保やな」というのは、この時点では見えてた。ただ、スペシウム光線的な必殺技まではまだ到達してないよね。この時期、正直、俺も「生みの苦しみ」の時期でもあった。なんとか打破したいと。で、9期10期が入って、ちょっとざわってしてる中で、「さあ、ヒット曲頼むで!」というファンからのプレッシャーも感じてた。『恋愛ハンター』('12)『ピョコピョコウルトラ』('12)あたりで少し見えたかすかな光があって、それをこじ開けるような曲を書かなきゃいけない!って苦しみながら何曲か作ったうちの一つが『One・Two・Three』('12)。ただ、これは俺の頭の中では見えてるけど、一般的な解釈でアレンジしたら曲にならんだろうなって思ってた。

つんく♂:なんせメロディというメロディがないから。基本的に同じ音符が続くだけ。普通作曲家はこんなことしないよね。メロディを作る仕事なのに、メロディを書かないなんてね(笑)。そんな中で半信半疑の中の半信半疑で大久保くんにアレンジ発注したと思う。メロの生かし方。リズムの出し方。空間を埋めすぎないアレンジ。なので振り返れば、リフがメインの『好きだな君は』('11)の延長にあって、16ビートで歌謡曲じゃない。いろんな偶然が重なったとはいえ、この曲が、いわゆる「V字回復期」と言われているモーニング娘。の突破口を切り開いたのは間違いないから、ここに辿り着いたのは、正直すごいと思った。

大久保:『One・Two・Three』は、作っていた時期は2011年だった気がします。あれは……なんであそこに行けたんですかね……。

 つんく♂:本来ならシングルにしなかったメロディかもしれない。サビも、「歌える」ところがあんまりないやん。あの時はまだ(田中)れいなと道重(さゆみ)がいたけど、超歌えるメンバーが少ない中でやれる最大限のアピールがあの曲やったんかなと思う。

大久保:あの時、発注の仕方が変わったんですよね。「テンポは上げなくていいし音数も少なくていいから、好きにやってみてええで」って。自由にやっていいモードをつんく♂さんがくれたおかげで、気持ちがラクになったんです。

 つんく♂:イントロも、いわゆるリフだけやん。普通はストリングスとかブラスを入れたくなるけど、リフだけで押し切った。変な音源に手を出さずに止められてよかったよな。

大久保:つんく♂さんの一言がなければ、盛り盛りの第一稿を出してた可能性はあります。リフではなく、メロ的なシンセリードをドカーンとやってしまったかもしれない。あそこまで削ぎ落とせたのは、つんく♂さんの言葉があったからです。

 つんく♂:でもだから、仮歌の段階であのイントロ部分に「wow wow」っていうメロディを乗せるところに辿り着いた。結果それが主メロみたいになってね(笑)。鞘師も活躍出来たし、振り付けイメージなんかも広がっていった。

 大久保:ミラクルが起こってますよね。『One・Two・Three』以降は「編曲家・大久保薫」という名前を世間に知っていただけたと実感することが多かったです。その年にインタビューが何本も入ったり、業界関係者の方からも「『One・Two・Three』好きで聴いてます!」みたいなお声がけをいただいたり。ハロプロを聴いて育ったバンドからのアレンジ依頼もありました。日常生活レベルで言えば、本当に嬉しかったのは、自分がアレンジを担当した曲が居酒屋で頻繁に流れるようになったこと。怖かったのは、金持ちになったと思われて詐欺まがいのことに巻き込まれそうになったこと(笑)。

つんく♂:お〜(笑)。気をつけや〜、有名=孤独の裏返しやからね。そんなんがありながら、その先のバクステ外神田一丁目『プロデュース』(’12)とか『飛び立て!スターシップ』(’12)とか、いわゆるメロディアスな曲のアレンジは外したくないから「大久保頼むわ!」っていう意識で発注してたね。他にも、『ラララのピピピ』(’12)みたいな、メインじゃないけどちゃんと当てたいものもしっかり仕上げてくれたし。

大久保:『好きだな君が』的なラインですよね。

 つんく♂:自信の現れだと思うけど、アレンジも強くなって、しっかり個性が出てきて、で、『ワクテカ Take a chance』('12)に辿り着く。この辺のモーニング娘。はシングル曲も1位が続いて、V字回復って言ってもらえるようになった頃だね。

 つんく♂:攻めのシングル曲もあれば、ハロプロ研修生の『彼女になりたいっ!!!』('12)みたいな、「ファンが大好き!」というか、歌いたくなる系もしっかりアレンジしてくれる。こういう積み重ねがやっぱり俺の中での「大久保、いけるやん!」っていう信頼につながっていった。

大久保:ありがとうございます。嬉しいです。

つんく♂:ラインナップを見ても、『Happy大作戦』('13)や田中れいな『Rockの定義』('13)とか、ハロプロのアレンジもそうやけど、未就学児のEテレの番組『いないいないばあっ!』の『パッパ らっぱ』(’13)もアレンジしてくれててね。まじ、活動的にも広がったよね。

もちろん、モーニング娘。『わがまま 気のまま 愛のジョーク』('13)『愛の軍団』('13)『What is LOVE?』('14)みたいな強い曲や、『笑顔の君は太陽さ』('14)のような空間の多いメロディアス系も心をギュっと掴むようになったし。ハロプロ研修生の『おへその国からこんにちは』('13)とか変態系もサラッとこなす。すごいねこの頃。

 大久保:この頃、何かがのりうつってましたね。 

 つんく♂:うん。この頃、キテるね。それまではプロアレンジャーになりたいという意識だったと思うけど、実はこの頃の方が自分の得意なことがやれてたのかな?

 大久保:そうですね。まさにハウスをよく聴いていたので。

 つんく♂:それ以前は「つんく♂といえば」とか「アイドルといえば」みたいな概念で作ってたと思うけど、『One・Two・Three』あたりから自己流に変わっていったんじゃないかなと思うのよ。予想外の面白さを曲に入れてくるようになった。

 大久保:おっしゃる通りです。時代的にも、デビッド・ゲッタ、ディプロ、スクリレックスなどのEDM系DJが自分名義で曲を発表することが増えていたじゃないですか。「ああいう音を聴きながら歌ってみたらどうなのかな」みたいな発想をしたり、「ワブルベースを使ったダブステップ的なベースラインを作れば長いこと踊れる」と発見できたのはあの頃ですね。そこで180度くらいスタイルが変わったかもしれないです。

 ただ、『One・Two・Three』も『ワクテカ Take a chance』も自分の中ではミラクルで、はっきりと自覚したのは『Help me!!』(’13)の時です。ここでようやく、音楽って自由なんだ、と気付けたというか。

 つんく♂:いろんなインタビューで「アイドルソングを作っちゃだめなんだよ」って言ってたんやけど、今ならその意味がわかってくれると思う。

 大久保:ディスコにしろヒップホップにしろ、つんく♂さんはアイドルに新しいジャンルを持ち込んだ第一人者です。それをさらにミクスチャーなところまで落とし込んでいる功績は本当に大きいですよね。今でこそ他のアイドルもいろんなジャンルをやっていますけど、モーニング娘。が誕生した当時は、そうやっていろんな音を試せるアイドルはモーニング娘。だけだったと思います。

 僕も『One・Two・Three』『ワクテカ Take a chance』『Help me!!』を経たことで、新しい音楽や考え方に常にオープンでいることの大切さを理解しました。ただ、そのためには精神力が必要ですよね。周りの目を気にしていたら、誰もやっていない音を導入することはできないですから。

 もの作りは選択と決定の繰り返しで、メロ、コード、音色……などなどたくさんの決定が果てしなく続く作業ですけど、最初から最後までブレずにスピード感を持って選択と決定ができた時は、それこそ本能レベルで音を奏でられたなと感じます。そうじゃない時、つまり、ブレてしまった時は、どれだけ時間をかけて作っても、だいたい大きなリテイクが戻ってきます。僕がブレてしまった時、つんく♂さんは必ず見抜きますよね。後で聴き返すと自分でも「ダサい! 弱い!」と感じて恥ずかしくなります。

 つんく♂:今回の話を聞いて改めて振り返ってみると、大久保くんのアレンジはずっと上手やったけど、『グルグルJUMP』にしても『めちゃモテサマー』('09)にしても、どこかまだやっぱり杓子定規というか、陳列棚に乗ってるというか、真面目な印象。でも『One・Two・Three』以降はその枠組みから飛び越えていった。羽がついたような感じがしたね。結局そうならないと、文化は作れない。

 大久保:つんく♂さんが求めてたのはあそこですもんね。時代を切り拓くオリジナリティというか。

 つんく♂:基本はロックだから、杓子定規な感じは求めてない。だけど、単に仕掛けだけ派手で、そこに美しい爆発がないんだったら、「いらんことせんと上手にまとめといて。75点でいいから」って思ってんのよ。

でも何かを飛び越えるかもって思ったら、逆にお願いしてでも、「これを大久保に」「これは大久保にしかできないから」って言うと思う。今はもう「大久保ならあの位置くらいにまでは持っていってくれるよな」って思いながら作ってる。

大久保:だから『One・Two・Three』以降の流れはびっくりしましたね。シングルを何度も頼んでくださるなんて。それ以前の僕は、そんな立ち位置ではなかったですから。シングルの発注が来たら「やったー! モーニング娘。のシングルやー!」って喜んでたくらいなので。それが「じゃあ次も」「次もお願い」って来るわけですから。この時期たくさん発注をいただいたことが自信に繋がり、迷わずにアレンジできるようになりました。

 つんく♂さんとのお仕事を重ねる中で学んだことはたくさんあるけれど、特に自分にとって大きかったのは、リズムとテーマメロの重要性です。ベースで曲を支配できれば全体的なオケも良くなるし、歌も歌いやすくなる。テーマメロにクセの強さを集約させれば、人の耳を掴むことができる。そういったことを実感しながら、少しずつ自分の血肉にしていった感覚があります。

 新曲『Chu Chu Chu 僕らの未来』は、これからのモーニング娘。にとっての羅針盤となるか

 つんく♂:大久保くんのアレンジは、アイドル事変の『歌え!愛の公約』('17)とか『ザッツマイポリ』('17)とか、ハロプロじゃないところにも強さがあるよね。このへんも好きなんだよなあ。

 大久保:これも『ドットビキニ』とかの流れですか?

つんく♂:流れやけど、しっかり形になってる。そんなんがあって、いないいないばあっ!『のりものステーション』('17)は、子どもたちのあいだで相当バズったよね。ここ最近だとモーニング娘。『ジェラシー ジェラシー』('17)とか『A gonna』('18)か。

 大久保:2018年に日本で『A gonna』みたいなのをやらせてくれる場所はないですよ(笑)。トラップをやっているアイドルはいなかったし、そもそもできないでしょうし。

つんく♂:できないよね。ボーカル録音もできないし、どうミックスして良いかも普通はわからないと思う。あとシュークリームロケッツ『夜中 動画ばかり見てる…』('18)。これはええ仕事したよね。スネアの音がいい。

 大久保:これも洗練されてて、音数もかなり整理しました。

 つんく♂:で、モーニング娘。『I surrender 愛されど愛』('19)があって、渡辺美優紀の『夕暮れセンチメンタル』('19)と『好きだし』('19)、この2曲ね。こういうところ、しっかり抑えてくれるのが超安心感。アイ★チュウ『マジカルLOVEポーション!』('20)、これも大好き。で最近、自分でもちょいちょい聴くつぼみ大革命『逆襲のYEAH!』('21)もええよね~。そしてBOYS AND MENの『どえりゃあJUMP!』('21)。この2曲は聴きまくったね。『グルグルJUMP』からの流れやけど。

大久保:こうやって振り返ってみると、ちゃんと流れがあるんですね。

 つんく♂:繋がってるね。繋がってるけど、やっぱり弾けたのは『One・Two・Three』からだよね。

 大久保:実は『One・Two・Three』の少し前に、東京から大阪に戻ったんです。以降の曲は全部大阪で作っていて、それが良かったのかもしれないです。しかも最初は玉手に住んでいて、難波にもほとんど行かなかったし、当時は今ほどネットで情報が溢れているわけでもなかったので、あんまり東京の声が入って来なかったんですよね。

つんく♂:いらん情報が入って来なくなったことが大久保くんにとっては良かったのかもね。で、Task have Fun『ちょく胸にフォルテシモ』(’21)、浦島坂田船『駆け上がるボルテージ』('21)があって。アラフォーアイドル輝け!プロジェクトの『All Together 限界超えよ!』(’21)も、ええ仕事したよね。モーニング娘。でいうと『よしよししてほしいの』(’21)があって、いちばん最近は6月8日にリリースする『Chu Chu Chu 僕らの未来』('22)やけど、これはどうやった?

大久保:あっ、それもう聞くんですか(笑)?

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