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「ハロプロの歴史=つんく♂さんとモーニング娘。の歴史だと思う」北野篤×つんく♂対談

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」、対談企画第16回目ゲストは広告のプラナーの北野篤さんです。後半では、作り手としてハロヲタとして、北野さんがつんく♂を質問責め! テーマの選び方やメッセージの込め方、時を経てもなお愛される作品とそうでない作品の違いなど、創作の本質に迫る解答の連続に、北野さんの口からは思わず「好きな人が、優しかった……」という一言も。ピ~スな対談の行方はいかに? 対談前編はこちら。
<構成 山田宗太朗 / 編集 小沢あや(ピース株式会社)

テーマは針の穴を通すような小さなこと、パンチラインはひとつ。

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北野:僕からもいろいろ質問していいですか? つんく♂さんは曲や歌詞を作る時、どうやってそのテーマを選び、どのタイミングで自分の中でアリ/ナシを決めているんでしょうか? また、その判断基準はどういったところにあるんでしょうか? 僕は広告の人間なので、クライアントからお題を出されて解決策を作っていくことが多く、無の状態から何かを作ることがあまりないんです。

つんく♂:ナシということはあまりなくて、すべてアリなんだけど、テーマは本当に小さなことでいいと思うんだよね。それを4分とか5分の曲にする。『ジェラシー ジェラシー』の時は、たとえば、「なんで働くんやろう」「なんで頑張るんやろう」と考える。それは結局、他人との比較なんやないかなと。「なんでヴィトンのバッグが欲しいんだろう。カバンなら近所のスーパーに売ってるやつでもええやん。でもそれじゃなくてヴィトンのが欲しい。それは贅沢したいというよりも優越感、裏返せばジェラシーしかないよなぁ」とかなんとか日々頭の中でモヤモヤしている。で、それがいつの日か曲になる。

モーニング娘。は社会的な倫理観やモラルをテーマにすることも多いけど、Berryz工房とか°C-uteでは、ちょっとパーソナルな出来事、初恋だったりデートだったり、好きな子がいる時の気持ちだったり、そういうものをテーマにしていたと思う。ただ、すべては僕の頭の中にある何か小さな点が始まり。なので、そもそも言いたいことはモーニング娘。でもBerryz工房でも、同じことを違う表現で歌詞にしているだけのように思います。とにかく、テーマは重箱の隅や針の穴くらいのことなのよ。それくらい小さいことを4分から5分に仕上げる。

北野:ドラマの脚本を書いてみたい、とかは考えますか?

つんく♂:時間があれば、いちばん作りたいのは映画。今、プロデューサーとして映画をたくさん作っているけど、本当は自分でメガホンを取りたい。音楽だと4〜5分の物語。それを2時間の映画にするってやつ。そうやって映画にした時でも、テーマは1個やと思うねん。針の穴を通すくらい小さいものが2時間になるから面白い。

北野:ドラマだと「このへんはちょっと流す部分」とか、映画でも、緊張させ続けないために抜く部分があるじゃないですか? 曲の歌詞でもそういうことがあるんですか?

つんく♂:うん、曲の歌詞も、1個でいいのよ。ワンコーラスに1個くらい。逆にいわば5分の中に1個あればいい。『LOVEマシーン』でいえば、「明るい未来に 就職希望だわ」があれば全体が締まって聴こえてくる。サビの「wow, wow, wow, wow」「yeah, yeah, yeah,yeah」とか「みんなも社長さんも」とか、盛り上がるのはそこだけど、この曲が100万枚行くか行かないかの差、「単に売れた曲」と「染み込む曲」との差は、たった1行のメッセージ。それがあるかないかで、よく聞いた、なんとなく覚えてるヒット曲と、スコーンと入ってくるような、時代を思い出させてくれる曲、その差は絶対にあると思う。

北野:なるほど。こないだもCMで『ザ☆ピ~ス!』(’01)が使われていましたよね。つんく♂さんの歌詞って、本質的に刺さるパンチラインがドンとあって、歌いたくなるんですよね。コピーライターとしてつんく♂さんとご一緒できることがあっても面白いのかなと思っているんです。「このテーマで一言、刺さることを書いてください」みたいな、そういうお仕事をしてみたいと思いました。

つんく♂:あのCMで使ってくれたのは「好きな人が 優しかった」の部分だよね。そこは本当に、当時忙しい中、よう書いたなと自分でも思う。いろんな表現がある中、よく「優しい」を選んだなと。

北野:すごいパンチラインだし、好きな人ってほんと優しいんだなって、こうしてつんく♂さんと対談して改めて感じます。つんく♂さんってめっちゃ優しいなって。今、目の前に、真理があります。

つんく♂:サンキュ(笑)。「好きな人が自分に対して優しかった」はよくわかるわけよ。そうではなく、自分ではない第三者に対してもあんなに優しいことをする人なんだ、と気付いた時のときめきは、もっとすごいんちゃうかなと思って。

憧れの先輩とか隣のクラスのちょっと好きだった人が、バスに乗る時におばあさんを手伝っていたとか、飼育小屋で動物に餌をあげていたりとか、そういう時に感じる「好きな人が優しかった」ってことを書きたかったんやね。そういうパンチラインがあれば、10年、15年経ってもたぶん腐らない。それが歌詞とかコピーの本質かな。

4分や5分の曲の中にずーっとパンチラインやメッセージが詰まっていると、これはウザいのよ。良い部分の「1行」も消えちゃう。「デリバリピザ いつも悩む LかMか」とか「選挙の日って ウチじゃなぜか 投票行って 外食するんだ」とか、正直、ここにメッセージ性はないわけ。もちろん奥は深いんだけどね。これは描写。

「選挙の日に外食するんだ」はいまだにいろいろ取り上げてもらえるけど、ここにもメッセージ性はない。ただ、引っかかりにはなってる。メッセージがあるのは「好きな人が 優しかった」とか「大事な人が わかってくれた」とか。こういうところがあれば、それ以外のふわっとした描写が全部賢そうで、意味ありげに見えてくる。

北野:なるほど、なるほど。

つんく♂:映画のシーンも、祭りで男と女が最終的にキスをするだけのお話でも、途中で不良に絡まれたりとか、テキ屋のおっちゃんに「寄っていき~!」って言われたりとか、スリに遭いそうになったりとか、そういったシーンがたくさんあることによって、最後のキスにボルテージを持っていける。伏線を全部回収しなきゃいけないかと言えばそんなこともなくて、「あれ? あの話もう出てけえへんねや」みたいなことがいっぱいあっていいのよね。そんなことを考えながら歌詞を書いてる。

北野:今って、全部言わないと伝わらない感じがあると思うんです。居酒屋なんかでも「どこそこのおいしい地酒と肴の店」みたいな、「全部言っちゃってるじゃん」みたいなことが日本のエンタメには多い気がしていて。そういうことも歌詞を書く上で気にされますか?

つんく♂:どうかな……。「説明はしっかりしなきゃ」とは思うようになったかな。「書かなくっても、曲聴いたらわかるやろ〜」って思ってたことも、何十年も気がついてもらえないことも多いからね。なので、「セルフライナーノーツに書かないと伝わらへんやろうな」と思うことはいっぱいあって、最近は特にちゃんと説明してる気がする。

ただ、最近悩むのは、ジェンダーの問題とかそういう部分かな。「男だから、女だから」みたいに書いた方が理解しやすいけど、「突っ込まれるかな」とか思ってやめちゃうことはある。それで、ちょっともったいない気がする歌詞も増えてきたかもね。なんとなく作品が弱くなる気がして。

北野:でも、つんく♂さんが歌詞で炎上することはないんですよね。そこがすごいなと思っていて。今、「おじさんをアップデートしなくちゃいけない」と言われているけど、そういう感じもつんく♂さんからはそんなに受けないんですよ。だからそもそも人としてちゃんとしている人なんだな、と思ってしまいます。

つんく♂:まあでも、結婚して子どもができるまでとそれ以降では変わってきているとは思う。この15年くらいで、俺の中の歌詞を書く人がどんどん大人になってきている気はする(笑)。かといって、過去の作品を振り返ってみて「この子たちにこんな曲を歌わせなければよかった」と思うことはないかもなぁ。もちろん自分のことを若かったなと思うことはあるけどね。

でもおそらくメンバーたちにとって、当初は「恥ずかしい」「なんでこんなセリフを……」なんて思うことがあっても、もっともっと大人になった時に「あんな曲は歌いたくなかった」と思うようなことのは、あんまりなかったんじゃないかと思うね。

北野:僕は「本人たちが楽しそうにしていない感じ」を見るのはダメなタイプなんですけど、モーニング娘。にはそういうことが全然ないんですよね。みんなが本当に曲が好きでやっているのが伝わってきます。

つんく♂:だからやっぱり、「今のモーニング娘。の曲いいな」と卒業生が思ってくれるようにしたいとは思っているし、何よりも現役メンバーに「わたしたちの曲、ダサいからな〜」と思われないようにとは思っていて。アイドルフェスとかで周りのアイドルたちと並んだ時に「売れ行き枚数は負けていても、曲として負けてへんし」という気持ちで歌って来いよ! と常に思っているかな。

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北野:そこは僕もMVを作る時に強く思っている部分です。予算の都合などで叶わないこともあるけれど、何よりメンバーのみなさんに自信を持って「良いMVなんですよ」と言ってもらえるものを作らなければと思っています。

DA PUMPさんが『U.S.A.』(’18)を出した時、メディアでハロプロっぽさが変な伝わり方をしたじゃないですか。「パッと見はダサい感じ、このトンチキ感がハロプロっぽくていいのよ」みたいな。僕はあの時「あんまりダサいとか言っちゃってほしくないな」と思っていて。『U.S.A.』はもちろん面白かったし、DA PUMPさんのパフォーマンスもすごいんだけど、あの盛り上がり自体は少し距離を取って見ていたというか。

つんく♂:うん、ちょっとわかる。

北野:僕もみんなもダサいものを作ろうと思ってやってるわけじゃないし、ちゃんと良いものを作っているつもりなので、ああいうふうに括られると傷つくし、メンバーも嫌だろうなと思っちゃったんですよね。

つんく♂:わかるよ。予算との戦いが常にある中で「こんなふうにやっとけばハロプロっぽいでしょ」みたいなことを、第3者のメディア側が決めつけのように言って「俺わかってる」感を出しちゃったもんね、あの時は。あれは得した人もいたけど損した人もいて、Win-Winではなかったと思った。

予算の中での戦いという意味で言うと、北野プロデュース作品の中では、道重さゆみの『Loneliness Tokyo』(’18)のMVがめちゃ良かったな。たぶん予算がない中(笑)、よくこのクオリティまでに制作したよなぁって思って見てたの。



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