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ハロヲタ・でか美ちゃんと市川紗椰が選ぶつんく♂パンチライン!「生活感と壮大さが混在する歌詞編」

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」。今回の対談ゲストはハロー!プロジェクト大好き=ハロヲタを公言しているタレントのでか美ちゃんさんと市川紗椰さんです。

昨冬には「ハロヲタのオールナイトニッポン」に出演し、推し曲や推しメンなど愛をたっぷり語っていたおふたり。Twitterで話題となった「#つんく♂パンチライン」を選んでいただき、「つんく♂は歌詞を書くときにどんなことを意識しているのか?」など、つんく♂哲学を掘り下げます。

大ボリューム鼎談になったため、3本立てでお届け予定。まずは前編をお楽しみください。中編はこちら。後編はこちら。
<文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あやピース株式会社)>

つんく♂が考える、「パンチライン」の定義。

つんく♂:よろしくお願いします!

でか美ちゃん・市川:よろしくお願いしますー!

つんく♂:今回は「つんく♂パンチライン」についてふたりに聞きたいんやけど、選ぶのはどうやった?

でか美ちゃん:めちゃくちゃ悩みましたよね。

市川:悩みました。

でか美ちゃん:そもそも「好きな歌詞」と「パンチライン」って定義が違うから、これまで考えたことがなくて。頭が割れそうになるくらい悩みました。

市川:わかります! 

でか美ちゃん:だから、お互いのアンケートを見て、

でか美ちゃん・市川:「ああーーーーー!」って(笑)。

つんく♂:おもしろい(笑)。

市川:でか美ちゃんのを見て、「私、どうしてこの曲を入れなかったんだろう」と思いました。

でか美ちゃん:私もそうですよ〜! 取りこぼしているものが絶対ありますよね。

市川:そもそも「パンチラインってなんだろう?」という疑問にぶつかってしまって。つんく♂さん的に、パンチラインの定義はありますか?

つんく♂:まあ、歌詞を書き始めた頃は「パンチライン」なんて言葉が世間になかったし、意識して書いてたわけじゃないかな。

でか美ちゃん:そうですよね。ヒップホップが流行り出してからですよね、パンチラインって言葉が出回るようになったのは。

つんく♂:noteでも書いたけど、俺の中でパンチラインっていうのは「耳をキャッチする言葉」と「耳をつかむだけでなく、頭の中になぜか残る意味のあるライン」の2種類があると思ってる。

「マンパワーが ものごっつい」
(モーニング娘。『THE マンパワー!!!』、2005年)
「寝不足は寝るしかない」
(モーニング娘。'14『TIKI BUN』、2014年)

『THE マンパワー!!!』みたいな、なんか耳に引っかかる歌詞と『TIKI BUN』みたいな当たり前のことを言ってるんだけど、なぜか頭に残るフレーズと、両方あると思う。Twitterで話題になったのは後者のほうかな。ファンのみんながいろいろ引き出してくれた。

でか美ちゃん:言われてみるとそうですね。でも、当たり前のことを言ってくれる人がいなかったから、発見だったんです。寝不足は寝たらいいのに、みんな違う方法で解決しようとするから。

市川:たしかにそうですね。

でか美ちゃん:共感できる歌詞が多いから、ハロプロにハマっていくところはあります。

市川:今回、パンチラインをセレクトするために好きな歌詞を振り返っていて気づいたのが、私は「結局人生ってそんなもんだろう」みたいな歌詞が好きなんです。Berryz工房の『雄叫びボーイ WAO!』でもシャ乱Q『そんなもんだろう』でも歌ってますけど、「結局人生ってそんなもんだろう」というメッセージが一番前向きな気持ちになれるなと思いました。

でか美ちゃん:変に「頑張れ、頑張れ」って繰り返し言われるよりも、その方が背中が押されますね。

市川:そうなんです。つんく♂さんの中で「人生はそんなもんだろう」みたいな人生哲学に気がついたのは、どういうきっかけがあったんですか? 悟ったタイミングがあったのか、もともとそういう性格なのか。

つんく♂:そうやね……まあ、中学生くらいから、斜めに物事をみる子どもだったように記憶してます。大人から何かしてもらったら「こういう場面では喜ばないとな」とか「ここは悲しい顔をしなきゃ」とか。たとえば誕生日プレゼントをもらったら「わあ! これ欲しかった!」って、喜ぶリアクションを意識してやったり。

市川:ああ〜、なるほど。客観的な子どもだったんですね。

でか美ちゃん:でも、斜めに物事を見ていた子どもだった結果、こんなに素直で真っ直ぐな歌詞が生まれるんですね。

市川:(笑)。

でか美ちゃん:市川さんもおっしゃってましたけど、歌詞を読んでいると悟りを開いた瞬間というか、境地に達している感じがあるじゃないですか。

市川:哲学ですよね、つんく♂さんの中に人生哲学がちゃんとある印象です。

つんく♂が歌詞の書き方を掴んだ瞬間。「シングルベッドだけで40種類は書いた」

つんく♂:でも、最近でか美にはつんく♂サロンに来てもらったり、よく会話しているからなんとなくわかると思うけど、中身は普通なんよな。

でか美ちゃん:そう、そうなんですよね! 前に「結局俺は大阪で生まれ育った庶民なんやと思う」とおっしゃってて。こんな大御所になってもひたむきというか、インディーズの時の「頑張ります」みたいなテンションがどうして続いているんだろうって思いました(笑)。

つんく♂:大病はしたけど、そこから歌詞の世界観が大きく変わったわけではないと思う。ただね、歌詞の書き方を掴んだ瞬間は記憶してる。

市川:え、気になります。

つんく♂:シャ乱Qの頃まで戻ってしまうけど、最初に掴んだのは4枚目のシングルの『上・京・物・語』の頃で。あの曲は、歌詞担当は俺ではなくてまことなんやけど、それまでの曲って95%くらいは俺が書いてた。この曲も、実はまことだけでなくて俺も歌詞を書いてて。

でか美ちゃん・市川:ええ〜!

つんく♂:でも、ディレクターや当時のプロデューサーがまことの歌詞を選んだ。その時に「あ、負けた」っていう悔しさがあって、ものすごく落ち込むのね。スランプというか、「歌詞ってなんやねん」って。

つんく♂:思い返せばそれまでの俺の歌詞は、そこらへんによくいる作詞家とかシンガーソングライターのへなちょこ歌詞と同じで、なんちゅうか、世の中を美化するというか、自分をよく見せたいという欲求がある歌詞やった。アマチュアのうちはファンしか聴かないから、「いい歌詞〜」「綺麗な歌詞〜」とか「メッセージ性あるよね〜」なんてチヤホヤ言われる感じで。けど、プロになるとそれでは売れないわけよね。

なかなかヒット曲っていうものが生まれなくて、同性から人気を得られるような曲も作れなくて、壁にぶつかった。そこで、いろいろ研究したわけ。たとえば事務所の先輩の森高千里さん、女性からも男性からも人気でしょ。あとKANさんの歌詞も時に哲学的なんだけど、時にわかりやすくドストレート。男が読んでも「それ、それ!」って思うものがあって、俺の書く歌詞とは何が違うんかなって悩んだ。

市川:つんく♂さんにもそういう時期が……。

つんく♂:で、5枚目のシングル『恋をするだけ無駄なんて』は、俺がまことと共同で歌詞を書いた。下高井戸の24時間営業の喫茶店で、朝まで、まことと集まって何回も歌詞を書き直して。せやけど、めちゃ中途半端な歌詞で、俺とまことがグルグル迷っているのがわかる。今読んでも、いっぱい詰め込みすぎなんよね。

市川:詰め込みすぎ?

つんく♂:デビューしたばかりだと言いたいこともたくさんあるし、歌詞を書くチャンスがいつまであるかわからない不安もあるから、一つの歌詞にアイデアやフレーズをいっぱい入れたくなるんよね。

市川:いろんなメッセージを入れちゃうんですね、若い人特有かもしれない。

つんく♂:そう。でも、聴く側には作詞家の諸事情なんて関係ないやん。伝えたい気持ちはわかるけど、いっぱいいれると伝えたいことも伝わらんよな。

でか美ちゃん:オンラインサロンでもおっしゃってましたよね、歌詞は詰め込みすぎないことが大事だって。それがダメだったとかじゃないですけど、福田花音ちゃんが卒業シングルで作詞した『わたし』を聴いた時に、「こんなに言いたいことがある人だったんだ!」って思った印象が残ってます。それが福田さんっぽくて好きだったんですけど、彼女も書くたびに洗練されて、ワンテーマでいきたいって気持ちが伝わってくるようになりましたよね。

市川:たしかにそうですね。伝えたいことがはっきりしてきたというか、すごく研究されているんだなと思いました。

つんく♂:福田のその作品の感じ、じっくり見たわけじゃないけど、話を聞いただけでもなんとなくわかる。俺も初期はそんな感じやったから。

つんく♂:シャ乱Qの『恋をするだけ無駄なんて』の中にも、いいフレーズがいくつかあるのを自覚した状態でシングルリリースされたんよ。この最中で「歌詞を書く」って意味を少し掴んだ感じはあったんだけど、「何か達成感が無い」理由を、この曲のプロモーション期間に自分で気がついた。イベントやライブでも、何度も歌うわけやん。自分で書いた歌詞なのに、とにかく覚えられないし、しょっちゅう間違えてた。

そこで「散々歌うのに覚えられないってのは、やっぱ歌詞として不完全なんだな」って思ったんよね。言いたいこと詰め込みすぎ、自分が気に入ったフレーズ羅列しすぎ、言い方を変えて同じことを何度も言ってる、みたいなのが原因だと思う。だって、小学生の頃に覚えたキャンディーズの歌詞なんて今でも空で歌えるわけでしょ? 歌詞って、内容だけでなく、形としても大事なんだなということも悟った上で、6枚目の『シングルベッド』に繋がっていくわけ。

でか美ちゃん:なるほど〜!

市川:しかも、「シングルベッド」というアイテムがすべてを物語ってるじゃないですか。暮らし、経済状況、世代、とか。一つの単語の情報量がすごいですよね。

つんく♂:『シングルベッド』だけで、たぶん30〜40種類は歌詞を書いたと思う。

でか美ちゃん・市川:ええー!

市川:「シングルベッド」というフレーズを固定して、何パターンも?

つんく♂:(首を振る)

市川:へえ〜、他の歌詞が気になりますね、聴いてみたい。

つんく♂:最初はもっと広大なテーマの曲をイメージしてたの。曲だけ聴くと、実はすごく明るい曲なんよ。メジャー進行で、作曲したはたけも「世界よ平和になれ!」くらい壮大なイメージで作ってたんよね。

市川:たしかにサビだけ聴くと、もっと羽ばたいていく感じがありますね。それをワンルームにするなんて。

でか美ちゃん:ほんとですね。

つんく♂:俺も最初は、そんなイメージで書いたんやけど、何回書き直しても当時のプロデューサーから「普通だね」って言われて。たしかに普通なんよね。で、苦しんで苦しんで、自分のベッドにたどり着いた。

つんく♂:「シングルベッド」に的を絞ってからも、AメロもBメロもサビも何度も書き換えた。仮レコーディングもやって、自分でも聴き直して書き換えたりもして。そのどこか、後半のあたりでパチッて音がなるように、透明のガラスの壁を突き破ってこっち側に入ってきた感覚が今も残ってるな。「あ、歌詞を書く俯瞰ってこういう角度だ」って。

そこからは歌詞の視点、視線が変わった。それでも、そこから1年くらい「こっち行ったら行き過ぎ〜」「これでは弱い〜」みたいなのをアルバム作ったりライブで体感しながら、自分の中のエビデンスやマニュアルみたいなものを完成させて、今に至るって感じかな。

でか美ちゃん:はあ〜〜、すごい。

市川:広い広い、世界平和の話から自分のベッドに視点を持っていった結果、みんなの心に刺さったんですよね。それで、それぞれの心の中で歌詞は広くなって、みんなに響いたんだと思います。

つんく♂:そこからは作詞家の諸事情ではなく、聞き手の事情で書けるようになった。「次の恋でもしてりゃ辛くないのに」このフレーズにすべてが集約されている。

でか美ちゃん:タイトルとサビの最後の一行だけで、愚かな男性であることと失恋の辛さが伝わってきますよね。

市川:境遇じゃなくて、「次の恋があれば全部いいのにな」と恋してる自分に溺れている感じがいいですよね。だって、それだけで辛くないんですよ。「その程度」ってとるのか、「みんなそうだよね」と納得するのか。

でか美ちゃん:でも、今の話で思いましたけど、壮大なテーマと小さなテーマを行き来するスピード感というのが、まさにハロプロにおけるつんく♂さんのパンチラインだなって思いました。

市川:もう、そうですね。私はそのジャンルでパンチラインをまとめましたもん。

でか美ちゃん&市川紗椰セレクト つんく♂パンチラインを発表!「そこに気づいてくれたのはうれしい」

つんく♂:ここから、ふたりが出してくれたパンチラインのことを話したいんやけど、お互いに選んだやつをみて「ああーこれこれ!」と思ったフレーズはある?

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