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「本音の向こう側にある本心を書く」ハロプロ作詞論を小川紗良と語る

つんく♂と小川紗良さん対談後編は、小川さんの質問につんく♂が回答。お互いのクリエイターとしての考え、小川さんが「ハッとした!」というつんく♂のアドバイスも必見です。前編記事はこちら
(文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あや

つんく♂「まだまだ才能を弾けさせたいねん」

つんく♂:小川さんから質問あれば、答えていこう。

小川:いっぱいあるんですけど……私はハロプロのMVをみるのも好きだし映画もみているんですけど、作り手はほとんど男性の監督じゃないですか。「これから女性のクリエイターで作っていこう」という考えはありますか?

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つんく♂:そこにこだわりはないね。良いクリエイターなら、どんどん仕事したい。ただ、俺はこだわりの部分とか修正箇所とか納得いくまで言いたいことバンバン言うから、その山を乗り越えられる人じゃないとね。ちなみに過去の女性監督でいうと宮坂まゆみ監督にいくつかつんく♂プロデュース作品のMVを撮ってもらった。とてもあたたかな作品を作る人でした。

つんく♂:今でこそ、テレビ業界もADさんも女性が増えたけど、20年〜25年前はまだ少なかったかもなぁ。毎回、レコード会社がたくさん資料を持って映像監督を提案してきてくれたけど、女性監督は1割もいなかったと思う。

小川:監督の母数自体も、男性の方が多いですからね。

つんく♂:小川監督として、つんく♂楽曲作品の映像にチャレンジ! とか?

小川:その気持ちはすごくあります。

つんく♂:泣かせちゃうかもしれないよ?「自分の映画と違って、全然こっち力入ってないじゃん!」みたいなこと、結構言うかもよ(笑)。

小川:全然大丈夫です。思ってるよりタフだと思いますし、絶対に力を入れるので。

つんく♂:それは心強いなあ。

小川:つんく♂さんの作品って、MVも中2映画も、女の子目線のものが多いですよね。だからこそ、「女性のクリエイターが撮ったらどんな風になるんだろう?」って、興味があります。自分が撮るのもやってみたいですし、他の女性クリエイターの方の作品も見てみたいです。

つんく♂:それはいいな。歌詞の解釈も違うやろうし、どんな風に色が広がって主人公をどう捉えるのか興味あるね。

小川:つんく♂さんは、映画もたくさん手がけられているじゃないですか。この間、新藤風監督の『LOVE/JUICE』(2000)を見て、まさにモーニング娘。の黄金期にこういう映画プロジェクトをされていたことにびっくりしました。映画の世界だと、『LOVEマシーン』や『恋愛レボリューション21』のようなキラキラした世界観とは、対極のものを作られていますよね。映画のプロジェクトは、どんな気持ちで挑戦されていたんですか?

つんく♂:あの頃は本当に忙しくて、98%くらいの時間をモーニング娘。やハロプロに使ってたんよな。映画をめちゃくちゃ作りたくてうずうずしてんねんけど、たった15分とか20分の作品でも、頭の中はそのことでいっぱいになるやん。曲と歌詞を作って、みんながレッスンしている間に脚本まとめて、レコーディングして、曲を完成させてる間にロケ地探して、みたいな同時進行なんて無理やん。

小川:他のことは考えられなくなりますね。

つんく♂:そうやろ。だから、深夜番組で映画を作ることになったんやけど、自分で映画を作る隙間を見つけられなくて、限られた予算の中で他の人に作ってもらうことになった。それから何十年も映画には触らなかったけど、やっぱり映画を作りたいという気持ちはずっとあって。

小川:映画への気持ちはずっとあるんですね。

つんく♂:実家には小さい頃から8mmフィルムのカラー映写機があって。3分しか撮れないやつ。子どもの頃、それをちょっと触った記憶がある。で、本格的には高校2年の時に、夏休みのバイト代全額叩いてビクターのVHS式のHI-FIビデオデッキを購入したんよ。当時の民生機の最高機種でね。HR-D725、当時の定価で298,000円。新機種も出てたけど、とにかくそれが欲しかったの。というのも、ステレオHI-FIで2トラック音声を取り込めて、さらにノーマル音質のアフレコトラックがあって、そこに副音声みたいな感じでナレーション入れたり、BGM引いたりが出来たんよ。そのデッキを親機に、もう1台の新機種のビデオデッキと、いわゆるホームビデオのハンディカムを使って動画を編集してた。

小川:どんな映像を?

つんく♂:高校の友だちが大事に乗ってたバイクをどうしても売らなきゃいけなくなって、思い出に動画におさめたいっていうんで、友人&バイクのプロモーションビデオみたいなの作ったよ。ハンディカムで動画を撮って、2台のビデオデッキで編集して、音楽をのせて。メインのBGMは鈴木雅之さんの「ガラス越しに消えた夏」。で、機材的にもテロップとか入れられないので、画用紙にマジックで「主演」「監督」「企画」とか書いてね。それをハンディカムで撮って、取り込むの。アナログ〜やけど、それが始まりかもね。

小川:そうだったんですね!

つんく♂:大学に入ってからは、アマチュア時代のシャ乱QのMVやドキュメントも撮った。それが好評で仲間のバンドの映像ディレクター兼プロデューサーもやったね。でも、プロになってから時間がなくなって。「俺は器用じゃないから映像か音楽、どちらかしかできない」と思ったから、映像は一旦は諦めたの。でも、人生、何歳で才能が弾けるかわからんやん? 伊丹十三さんも50歳から映画を撮り始めて、あれだけ才能が開花したわけやし、「俺もまだいけるな!」って。

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小川:まだ才能を弾けさせるんですか(笑)!

つんく♂:音楽は結果残したけど、映像はプロデュースばっかりやったから、いつか作りたいな。小川紗良には負けてられへんよ。

小川:音楽をやる時に比べて、映像にアプローチする時の気持ちは変わりますか?

つんく♂:そうやなあ……主人公を捉える発想は同じやと思う。でも、学級委員とヤンチャくんが居たとしたら、どちら側の視点で撮るかというのが、監督の腕よな。そこは全然違う楽しみ方があると思うなあ。

小川:曲の中の詩だと、自分の頭だけで映像を補うから、聴く人によっていろんな解釈が生まれますよね。でも、映像は「画」として残るから監督の見せ方がより強くでますよね。

つんく♂:お茶の間に解釈を渡しちゃうからな。ちなみに、小川さんが学級委員でヤンチャくんと付き合ってた時の状況を逆にしたのが、松浦亜弥の『絶対解ける問題 X=♥』やねん。いろんな解釈とか設定があるよな。

クリエイターとして突き抜けるための、つんく♂からのヒント

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小川:私はモーニング娘。の『そうじゃない』という曲が好きなんですけど。牧野真莉愛さんがメインなので、THE アイドルの「絶対に可愛らしい曲だ!」と思ったんです。でも、聴いてみたら、すっごくかっこいい曲で、意外だったけど牧野さんにすごく合ってた。「真面目なんかじゃない」って彼女が言うと妙に説得力があるし、自分も「そう、真面目なんかじゃないの!」と重ねて聴いてしまいました。

つんく♂:牧野は見た目がストレートな美人さんなんやけど、笑顔の奥に何かがありそうなんよな。考えがしっかりしているというか、計算高そうというか。親戚のおっちゃんからしたら自慢の姪っ子タイプなんやろうけど、根っこは結構強い子やと思うねん。見てくれを強く飾らなくても、ほんまは「そうじゃない」。牧野を主人公にした曲を書くことが決まった時、どうしても「お嬢様ヒロイン」みたいな方向ではペンが進まなかった。なんか「ちゃうなぁ〜」って。

小川:ガッツを感じますよね。笑顔で可愛らしいんだけど、自分の中に「こうしたい」「こう見せたい」という熱意があって、仕事にも繋がっていて。見ていてすごく元気が出ます。

つんく♂:今日の対談を踏まえて、いま、こうやって歌詞を読み返したら、小川紗良な部分が結構あるね。

小川:そうなんです。意地っ張りなくせにちょっと繊細、みたいな曲が好きですね。Juice=Juiceはそういう曲が多いじゃないですか。

つんく♂:あれは、(宮本)佳林がそのタイプなんよ。ちょっとピュアな部分が多めやけど、「そうじゃない」部分があるよな。

小川:Juice=Juiceの『私が言う前に抱きしめなきゃね』が大好きなんですけど、あの曲に出てくる「黒髪」で「文化部」の女の子って、まさに私だと思って聴きました。

つんく♂:設定はそうやけど、歌詞にも共感するの?

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小川:すごくわかります。強気でいながら、「抱きしめていいよ」って結局相手に決断を委ねてしまう。寄ってきて欲しいし気づいて欲しい、でも自分からは行けないという“あまのじゃくさ”はよくわかりますね。弱みを見せたくないのかもしれない。頼ったり甘えたりするのがすごく苦手だから、気づいて欲しいんです。

つんく♂:強がった結果、相手が離れてしまったら後悔しないの?

小川:すっごく後悔しますね。素直に甘えればよかった、頼ればよかったという気持ちは常々あります。そういう曲がハロプロにはいっぱいあるので、頭を抱えて聴いています(笑)。

つんく♂:(笑)。そんなに反省しても、人間って変わらないもんなんや〜。

小川:なかなか甘えるのは難しいですね。「強くあろう、しっかりしていよう」という気持ちが、かなり強いんだと思います。

つんく♂:おもしろいなあ。その気持ちを映画とか作品にしたらいいよな。

小川:そうですね。作品を作るときは自然と、自分の気持ちを反映してしまっていると思います。

つんく♂:だからさ、「抱きしめてよ」って素直に言えた後の物語を描いてほしい。

小川:……はあ、なるほど! 等身大の自分じゃなくて、言えたその先ですか。

つんく♂:リアルな自分はそうなれないんやけど、映画の中の主人公には素直に言わせてみてほしい。

小川:それが撮れれば、自分でも一歩進めそうな気がします。

つんく♂:進むと思うし、観てみたいよ。その映画を撮るためやったら、オーディションに立ち会うな(笑)。

小川:つんく♂さんが来てくれるんですか(笑)。「該当者なしです」って言ってほしい(笑)。

つんく♂:3回くらいオーディションしよう(笑)。ミラクルが起きるまで待ちたいよな。

小川:映画を撮ることって、自分のコンプレックスや気に入らない部分を乗り越えたい気持ちが原動力にあると思います。

つんく♂:ロックに置き換えると、歌詞を書けるミュージシャンと書けないミュージシャンというのは、本当に辛かった時の本音の「その先」が書けてるかどうかやと思う。「惨め」を美化して書くのは誰でも出来るけど、「惨め」をどれだけ「みっともなく」書けるかが勝負やと僕は思ってる。壁にぶつかった後の、本音が書けるといい歌になるってね。

小川:等身大だけじゃなくて、一歩先の未来ということですね。

つんく♂:『海辺の金魚』も、小川さんの根底に流れるものが見えて、映画としてすごく美しい作品やった。次は、奥にグッと入ってくる「エグさ」みたいなものが、あるとおもしろくなるよな。音楽だと、中島みゆきさんとかはそうやと思うねん。そこまでたどり着いて初めて、全方位型の映画監督になっていくと思う。実際の「私(小川紗良)」には求められないことやから、映像の中に小川紗良の根底、つまり一番恥ずかしくて人に見られたくない内面や、一歩その先が見えたら、視聴者は絶対に心掴まれると思う。

小川:なんか……どんどん、映画を作りたくなりました。

つんく♂:めちゃくちゃ楽しみ。ここまで話してわかってくれる人ってあんまりおらへんから話さないけど、小川さんには話したくなったよ。

小川:嬉しいです。同世代の監督や女性の監督ってたくさんいて、等身大の悩みやコンプレックスを映画の中で描くことって多くの人がやっているんですけれど、そこから一歩抜ける人について言語化できてなかったんです。今お話を聞いて、葛藤のその先を描けるかどうかが大きなボーダーラインだと思いました。

つんく♂:めっちゃ怖いし、めっちゃ恥ずかしいけどな。

つんく♂楽曲に、これだけは言いたい! 

小川:モーニング娘。’21の新アルバムを買って毎日聴いているんですけど、『Hey! Unfair Baby』『二人はアベコベ』『恋愛Destiny〜本音を論じたい〜』など、全部好きです。

つんく♂:ここに出てくる女の子たちのキャラクターをどう受け止めた?

小川:曲ごとに違う子を浮かべましたね。アルバム全体としては、今のモーニング娘。’21の形としてまとまっているなと思います。アルバムタイトルの『That’s J-POP』というのが、日本の音楽業界全体に願いを込めているように思いました。

つんく♂:そんなつんく♂に「これだけは言うときたかった」「ここの歌詞は違うと思うんですよ」というツッコミがあったら、頂戴。

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