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大学を楽しむには「コミュニティづくり」の意識が必須。近大・世耕石弘×つんく♂対談

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」。今回の対談ゲストは近畿大学の経営戦略本部長・世耕石弘さんです。ド派手な入学式や近大マグロを打ち出した広告など、躍進のきっかけを作ってきた世耕さんは、他誌のインタビューで「日本のスタンフォードになる!」と語ります。
近大が次に目指すもの、そして大学の面白さとは? 後編では、起業家育成制度の話や、大学をもっと上手に活用する方法・意識の持ち方について語りました。対談前編はこちら。
<文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あや(ピース株式会社)

目標は「2025年までに大学発のベンチャー企業を100社創設」

つんく♂:最近、近大が力を入れている「起業家育成制度」について、僕はあんまりわかっていないので教えてもらいたいです。

世耕:注目してくださってありがとうございます。近大は医学部から芸術系まで、幅広い研究分野を持っている大学なんですね。なので、思いもよらない化学反応がうまれて、アイデアが膨らむ可能性がある。今は「KINCUBA」という起業支援プログラムがありまして、2025年までに近畿大学生と大学院生、研究者たちによる大学発のベンチャー企業を100社創設することを目標にしています。

つんく♂:起業のお金は誰が出すんですか?

世耕:大学側が支援することはほぼないですね。OB・OGの投資家がいるので、彼らとのネットワークを作っておいて、学生とOB・OGをつなげられるようにするのが大学側の役割かなと思っています。たとえば出資を求める学生がいれば、興味を持ってくれそうな人を探す。いわゆる「コーディネーター」のような役割でありたいなと思っています。

あと、学生で起業したい人って大学の中でまとまっていなくて、ポツポツなんですよね。なので、所属しているサークルで「起業したい」と発言すると「お前アホか」と言われて、出鼻をくじかれてしまうことが往々にしてあります。それは、もったいないですよね。なので、起業したい人たちが集まれるコミュニティを用意して、お互いの意識を高めたりタッグを組んだりしてもらいたいと考えています。

つんく♂:なるほど。具体的にどんなサポートをしているんですか?

世耕:目立ったもので言うと、近大の東大阪キャンパスの西門前に「KINCUBA Basecamp」というインキュベーション施設を作りました。環境面からも起業をバックアップするための場所。起業志願者向けのイベントをしたり、オープンスペースがあるので打ち合わせや作業ができたり、法人登記もできるので立ち上げ当初のベースとして使ってもらえます。しかも、24時間利用可能。こういう、いつでも誰とでも集まれる場所を用意しておくと、大人が教えるより仲間同士で成長してくれるんですよね。僕らは御用聞きに徹して、彼らをサポートするようにしています。

つんく♂:すごいですね!

世耕:思うのは、若い子のほうが発想が豊かやし、彼ら彼女らのやりたいことをやるためのサポートにまわることが大学に求められていることなんじゃないかと。もちろんわからないことがあればアドバイスもするんですけど、基本は学生たちのアイデアとやる気を尊重したい。

つんく♂:学生がうらやましいです。僕も大学生のときにやりたかったな。

世耕:(笑)。

つんく♂:でも、そうすると起業に夢中で、授業に身が入らない子も出てくるんじゃないですか?

世耕:仰るとおりです。学生の中には、一度休学して起業準備に専念する人もいます。ただ、中退だけはしてほしくないですね。

近畿大学には卒業生55万人のとんでもないネットワークがあって、それを活用できなくなるのは非常に辛い。つんく♂さんも感じておられると思うんですけど、そんなめちゃくちゃ努力しなくても大学は卒業できるじゃないですか。つんく♂さんだって、学生時代ほんまにいろんな活動をされていたのに、成績も「優」をたくさん取ってはるんですよ。……ほら、ここに証拠があります。

(つんく♂の成績表を出す、世耕さん)

つんく♂:まだ、残ってるんですね!

世耕:大学はすごいところですよ(笑)。

つんく♂:そんなに成績悪くないでしょ?

世耕:語学とかいいですね。英語も優ですし。

つんく♂:それは、再履修で取った優です(笑)。

世耕:(笑)。一見つまらなさそうな必修科目は、成績があんまりなんですよ。ですけど、経営心理学とかは「優」なんですよ。

つんく♂:文章を書くような授業は得意でしたね。

世耕:起業をするのは個人の思いだけじゃ難しいんですよね。環境が整ってないといけない。たとえば、「親ブロック」。周りが就職活動を始めると「あんた何してんの」と、親が子どもの進路を心配して、当人が起業を諦めてしまうことがよくあります。そして、大して興味のない銀行や役所といったお堅いところに就職する。

もし起業準備に時間がかかったり、やりたいことに迷いがあったりするなら大学院で起業家向けのコースも用意しています。そこで猶予をもらって、時間を使ってしっかりプランを考えて、最悪向いてないと思ったら新卒扱いで就職することもできます。

つんく♂:思えば僕らも、バンドは起業みたいなもんでした。

世耕:そうですよね。今やったら音楽をネットで配信して、有料のサロンで後輩を指導して、みたいなお金を稼ぐ方法を考えられてたかもしれないですね。

多彩な人間関係を構築していくには、大学は「おいしい」場所

つんく♂:大学を卒業する・しないの話ですけど、今のご時世的に、就職して終身雇用が全てじゃない世の中で、大学に進学せず自分の才能をアピールして、面白い会社に行ったり作ったりする人も多かれ少なかれいると思います。あらためて、大学に行く面白さや楽しさを教えてもらいたいです。

世耕:こんなこと大学の人間が言ったらあれですけど、大学が教えていることはどこも似通っていると思います。文部科学省が基準をガチガチに決めているので、そこから大きく外れることは難しい。

なので、個性が出るとしたら「コミュニティ」ですよね。近大の場合は学部が多いので、色んな分野の人間がいる。医学や薬学を勉強している人間から、理工、経営、文学、そして芸術系までほんまに幅広いわけです。サークルになると、その人たちが一緒になるので、知識や人脈はぐんと広がると思います。

つんく♂:そうですね。僕もそうでした。

世耕:シャ乱Qも、近大のサークルで出会ったメンバーで結成されていますもんね。

つんく♂:はい。

世耕:大学時代の人間関係って大きいんですよ。たとえばGoogleやYahoo!も、創業者は大学時代に出会った友人同士。Appleの創業者は同じ大学ではありませんでしたが、学生時代に知り合い、会社を創業しました。

もちろん大学時代はアルバイトに勤しむ人も居ていいと思うんですけど、「出会いの場」という意味で大学は使えます。高校までは地元も近くて、偏差値で区切られるような学校なら学力レベルも似ている。大学からいきなり、育ってきた環境も、趣味も、ぜんぜん違う多彩な友人たちが一気に増えます。なので、いろんな活動に参加していればコミュニティが広がっていくことを意識しておいてほしいですね。多様な人間関係を構築していける意味で、これに勝るものはないと思っています。

つんく♂:近大は大きいですよね。学部を超えてコミュニティを作るには、サークルに入るしかないですか?

世耕:そうですね。授業を受けているだけじゃ、友人関係は広がらないかなと思います。

つんく♂:そうしたら、割と消極的な人は難しいかもしれないですね。

世耕:だから、やりたいことが見つからなくてもクラブやサークルに入っておくのは手だと思います。消極的な学生ほど、意外と引きずり込まれていきますし。

つんく♂:なるほど。だいたい何%くらいが所属しているんですか?

世耕:公式・非公式を合わせると、6〜7割はなんらかのコミュニティに入っていると思います。

つんく♂:(拍手)それはすごい!

世耕:つんく♂さんも覚えていらっしゃると思いますけど、入学式には新入生を取り囲むようにグワーッと長蛇の列ができて、ものすごい勧誘があるじゃないですか。近大は東大阪の便利な場所にあるから、敷地が狭いんですよね。そこにたくさんの学生がいるので、たとえば応援団に熱心に勧誘されて、いつの間にか入ってた学生とかいますよ。

つんく♂:僕のときもいました(笑)。

世耕:広いところなら逃げられるんでしょうけどね(笑)。近大は敷地も狭いし人も行き来してるし、必然的に交流が生まれやすいんやと思います。

近大最大の特徴は「東大阪」という街にあること

つんく♂:先ほど話されていた「今の時代における偏差値の意味」については、率直にどう思われていますか? 大学で学べることは似通っているのに、第一志望の大学に落ちると「一生の終わり」くらい落ち込むわけじゃないですか。国立の大学は別枠かもしれませんけど、私大だと偏差値の違いにどういう意味があるんでしょうか。

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