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ド派手入学式やマグロ事業……話題を続々作る仕掛け人、近畿大学・世耕石弘×つんく♂対談

noteマガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」。今回の対談ゲストは近畿大学の経営戦略本部長・世耕石弘さんです。2022年まで志願者数9年連続トップを誇る近畿大学(通称、近大)。ド派手な入学式や近大マグロを打ち出した広告などが注目を集め、革新的で個性的な大学として認知される同大学の卒業生であり、入学式のプロデュースを務めたのがつんく♂です。

前編では、深いつながりが生まれるきっかけとなった入学式について、志願者数日本一をキープする秘策などたっぷり語りました。対談後編はこちら。
<文 羽佐田瑶子 / 編集 小沢あや(ピース株式会社)>

「前例踏襲型を見直そう」ド派手入学式に込められた想い

つんく♂:世耕さん、本日はよろしくお願いします!

世耕:よろしくお願いします!

つんく♂:たしか、僕と世耕さんはほぼ同年代でしたよね?

世耕:僕が1969年生まれなので、つんく♂さんのひとつ下の学年にあたります。

つんく♂:高度経済成長期の最中に小学生、中学生と歩んできた世代ですね。

世耕:そうですね。大学時代は、まさにバブルど真ん中です。

つんく♂:同世代ふたりの対談ですが、やはり近大の入学式について、話さないことには始まらないかなと思っています。まず聞きたかったのが、そもそも近大の入学式のプロデューサーとして僕に声をかけていただいたのは、どのような理由があったんですか?

世耕:流れでいうと、平成15年に3代目理事長が「前例踏襲型の入学式を見直して、若手職員だけで入学式を企画せよ」と命じたのが始まりです。そこから、新入生にとって一生忘れられない式にしようと企画を練り、つんく♂さんにお声がけするきっかけになりました。

つんく♂:面白い発想の理事長ですよね。

世耕:そうですね。理事長の言葉は非常に的を射ていて。というのも、入学式で「おめでとう、おめでとう」とみんな連呼するけれど、よーく顔を見てみると、しんどそうな顔をしている学生も一部いるんです。それは日本トップの東大の医学部以外は、しょうがないことかもしれません。第一志望の大学に入学することは、ほんまに難しいことですから。

つんく♂:(うなずく)

世耕:「不本意入学(第一志望以外の学校へ進学すること)」で入ってきた学生たちの気持ちを、ポジティブなものに変えられるようにしなければあかんなと思いました。そこで、ダンスサークルやチアリーディング部を巻き込んで、盛大な入学式を作ったんですね。でも、最初の頃はすごく話題になりましたが、次第にマンネリ化していきました。そこで「自分たちの知っている人たちを手当り次第呼んで、身内でやっているような自己満足で終わらせていないかな?」と思ったんです。

僕は、近畿日本鉄道で広報を担当してきて、近畿大学に転職してきました。長く広報に携わっている身として、「唯一無二のコンテンツやのに、注目されなくなってきているのはもったいないな」と思っていました。起爆剤として、変化を加えるべきだと。そんなことをぼんやり考えていたときに、『近畿大学byAERA(AERA Mook)』でうちの理事長とつんく♂さんと元水泳選手の寺川綾さんの鼎談があったじゃないですか。

つんく♂:ありましたね。

世耕:すごく覚えているのが、そこでつんく♂さんに「入学式を盛り上げるにはどうしたらいいですか?」と立ち話的にご相談したんですよね。プロデュースをお仕事にされているし、15000人規模を対象にしている意味では、入学式も同じ考え方なんじゃないかと思って聞いたんです。そうしたら、ポンポンとユニークなアイデアを返してくださって。そこで「入学式を大きく変えるにはつんく♂さんしかおらへんな」と思って、お声がけさせていただきました。

つんく♂:ありがとうございます。近大の入学式が変化を遂げたことで、他校の入学式も変化してきているんですか?

世耕:これが面白いもんで、いろんな大学が見学に来てくれたんですけど、なかなか変えられないようですね。やっぱり変化させるということは批判も起きる。「学生の本分は勉強であって……」などと学内でも言われることはありました。僕らはどうにか説得してきましたが、大きな組織である以上、難しいことも多いようですね。

つんく♂:もっと厳かであれ、ということですか?

世耕:僕が感じているのは、みんな昔から受け継がれてきた入学式のスタイルを「確固たる意思」やと思ってるんですよ。新入生がぞろぞろ入ってきて、モーニングを着た学長たちが壇上にズラッと並んでいて、誰かが式辞をよんで、在学生と新入生の代表が宣誓する。古い歴史があるように勘違いされてますけど、これは明治時代にあった入隊式をアレンジしたものなんですね。そう考えると、2000年以上あると言われている日本の歴史の中で、たかだか150年前のものなので、歴史も伝統も大したものではないんです。

僕はホテルで働いていたことがあったんですが、結婚式のスタイルはどんどん変容していると感じていました。チャペルで式を挙げるなんて、150年前の人は考えられなかったと思います。そう考えると入学式だって時代に合わせて変えてもいい。変化させることができた我々はすごいなと再認識しています。

つんく♂、声帯の摘出を発表した入学式のことを振り返る

つんく♂:僕が入学式で校歌を歌ってから、何年くらいになりますか?

世耕:2013年だったので、10年くらいですね。プロデュースではなくて、サプライズゲストとして登場いただいたときですよね。

つんく♂:10年ですか〜、早いなあ。その翌年から入学式のプロデュースをさせていただいておりますが、「つんく♂」が入学式をプロデュースするようになって、変わったことはありますか? エピソードや学生の感想など教えていただきたいです。

世耕:お世辞じゃなく、いろんな学生や卒業生に「あそこ(入学式)で気持ちが変わった」と言われます。1/3くらいが不本意入学で、言葉を選ばずに言えば、絶望的な気持ちで来た学生もいるわけで、そういう学生たちが前向きな気持ちになれるというのは大きいですよね。あと、地元を離れてひとりで入学する学生も多いので、新入生同士で共通の話題があるというのも、コミュニケーションのよいきっかけになっていると感じます。

「初めが肝心」とは言いますけど、たった一日の経験で、こんなにも大きくスタートが変わるんだなと感じています。様々な努力の結果ではあると思いますが、つんく♂さんプロデュース以降、退学率は確実に下がってきています。

つんく♂:それは嬉しいですね。

──つんく♂さんは「KINDAI GIRLS」の楽曲『青春×青春』なども手がけられていますよね。

世耕:入学式で感動した人たちが「KINDAI GIRLSに入りたいけどなかなかオーディションに受からない」という嘆きもよく聞きました。

つんく♂:志願してくれている人がそれだけいるんですね。

世耕:最初にKINDAI GIRLSの話が出たときはびっくりというか、ちょっと「ほんまですか……?」というテンションになってしまって。つんく♂さんはオーディションで決めるって自信満々に仰ってたけど、誰も手を挙げてくれない可能性もあるんちゃうかなって内心思ってたんですよ。なので、チアリーディング部やダンスサークルに根回ししておこうと思っていました、正直(笑)。

つんく♂:(笑)。

世耕:いざオーディションを開催してみたら、驚くくらいの人数が集まったじゃないですか。もう、ほんまに反省したというか、自分は大学にいるのに学生たちのことをなんもわかっとらんな、さすがつんく♂さんやなと痛感しました。

ーーつんく♂さんが初めて入学式のプロデュースに関わった2014年、喉頭がんが見つかり治療に専念されるということで、入学式での登壇が叶いませんでした。そして、翌年入学式で声帯の摘出を発表しました。そのことについて、当時の心境など教えていただけますか?

世耕:話させてもらっていいんですね。これはね、熱く語ってしまうと思います。

ーーぜひ、お願いします。

世耕:プロデュース初年度は最初にご病気を発表された頃で、治療に専念されていました。つんく♂さんが来られないということで、もう……ほんまに残念でした。SNSを使って遠隔で参加してもらったんですけど、それでもすごく盛り上がりました。せやけど、やっぱり来てもらいたかったんです。

その後、秋頃には体調も回復されてると発表されてましたし、来年の入学式もつんく♂さんにお願いしよう、と依頼させていただきました。するとつんく♂さんの事務所から、「実はつんく♂が再入院して手術しまして……」と伺いました。

つんく♂:はい。結果的にはプロデュースはさせていただいたわけですが、正直、大阪まで行けるか、近大の入学式に参加できるか、ステージに上がれるのか、どこまで回復しているかの想像もつかない状態だったので、本当にギリギリまで悩みました。手術して入院している頃(前年の2014年10月)に「来年(2015年)の入学式のプロデュースもぜひ、お願いします」と連絡をいただいたんです。病気とはいえ、初プロデュースの入学式に参加出来ず穴を開けてしまったので、まさか翌年も依頼をいただけるとは思ってもいませんでした。なので、すごく勇気をいただいたのを覚えています。少し前に「寛解した」という発表をしたばかりのことでした。

ちょうど、その裏で僕は「声帯を摘出するか否か」という大きな決断に迫られ、沈み込んでいました。そして、声帯の全摘出をしたんです。僕はスタッフ経由で「当日登壇できないかもしれない」と近大サイドに伝えてもらいました。すると、「つんく♂さんの出演を依頼してるのではなくプロデュースを依頼しているので、登壇するしないはお任せします」というお返事があり、驚きました。

世耕:詳しいことまではわかってなかったというのもありますが、近大としては、新入生は、友達ができるかどうか、都会で暮らしていけるのかどうかなど、不安な気持ちでいっぱいな子も多いです。そういう子たちにつんく♂さんの心情を直接伝えてもらえたら、すごいことが起きるんじゃないかとは思っていたのも事実です。そしてなによりも入学式革命を起こしたかったので「ぜひお願いします」と依頼しました。

つんく♂:ここまで言われたら、お断りする理由はありません。ただ、手術直後で本当に憔悴しきってたのも確かで、どこまで体力が回復するか自分でも予想がつきませんでした。

そこから闘病生活に入りました。食欲もなく、落ち込んでいた僕は、4月の近大の入学式に出るのも正直「無理だろうな」と思っていました。そんな僕に妻が「入学式のプロデュースするにしても、こんなに痩せ細った状態で誰の応援が出来るの? 逆に新入生のみなさんに『つんく♂さん大丈夫?』って心配されるでしょ。だからたくさん食べて体力をつけなきゃ」とハッパをかけられる日々でした。本当にそうです。学生達にエールを送るためにも、僕が回復していなければ話にならない。そう思ってリハビリ生活に入りました。

世耕:そうだったんですね。

つんく♂:こんな僕でも必要とされる場所と目標があることは本当にありがたかったですし、だからこそ闘病生活を頑張れました。それでもギリギリまで登壇するかしないかはずっと悩んでました。マスコミへの話題作りとか、入学式を声帯摘出の発表の場にしようとか、そんな余裕はまったくなかったですね。ただただ「舞台に上がれる状態まで回復するかどうか」「学生たちにエールを送るにふさわしいかどうか」そればかりを考えていました。

世耕:なるほど。

つんく♂:その日のその新入生たちや一緒に入学式を盛り上げてくれる在学生たちに僕が出来ることは、「僕も再起をかけて、明日に向かって進んでいく新入生だ」という気持ちを伝えること。その一心だけで当日を迎えました。なので、当日、サプライズな形で発表になったこと、本当に恐縮です……。

世耕:入学式に参加した新入生にとどまらず、あそこまで広く世の中に発信されることになったのは、つんく♂さんの人柄、生き様があってこそですし、その時点での集大成だったと思います。つんく♂さんのプロ根性は、やはり本当にすごいと思いましたね。広報としても、人生であれほど大きな話題を扱うのは最初で最後やなって思います。

「関西1位じゃなくて全国1位じゃないと話題にならない」

ーー近大は私立大学での志願者数第1位を、10年連続でキープされています。プレッシャーは感じていらっしゃいますか?

世耕:もともとうちは関西で3番目、全国だと10番目くらいの志願者数だったんです。ですが関大、立命館などを超えて関西で1位になってもマスコミや世間にはぜんぜん相手にされなかったんですね。

つんく♂:そういうもんですか。

世耕:ほんまはすごいことですけどね。「これは全国で1位にならんと話題にしてもらえへんな」と思って、志願者1位を目指しました。ただ、日本一になることを目的にはしていないです。志願者1位になる目的の一つは、注目を集めること。あとは、間違いなく人口が減り続け少子化という流れがある中で、どんなに人気のある大学でも定員割れしていく可能性は高いので、今のうちに数を延ばしておきたいという狙いもありました。

つんく♂:1位になったときは、どうやったんですか?

世耕:嬉しかったですし、新聞でも一面で扱ってくれるところもあったんですよ。そこから続々といろんなところで取り上げてくださって、一番になるってすごいなと思いました。

つんく♂:それって、狙ってなれるものですか?

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