つんく♂自薦のパンチライン。でか美ちゃん&市川紗椰の徹底解析に驚愕!
背中を押してもらう系と自分を追い込む系、どっちの歌詞が刺さる?
つんく♂:今回、ふたりとも時間をかけてパンチラインを選んでくれたけど、実際に選んでみてどうやった? お互いに出し合ったものをみて気がついたこととか、自分が好きなものの傾向とか気づいたことがあったら聞かせてもらいたくて。
市川:でか美ちゃんが選んだ歌詞は「背中を押してもらう系」が多いかもしれないって思いました。私は逆に押されない方が楽チンで、「自分で自分を追い込む系」の方が刺さってたのかなと思いました。
つんく♂:ああ、それはおもしろい!
でか美ちゃん:ほんとにそうですね。市川さんが選んだものは、結構ストイックですよね(笑)。
市川:そうそうそう(笑)。『みかん』もすごく好きなフレーズだけど、それよりも『Be Alive』みたいに自分に責任を感じさせるものとか、『ブレインストーミング』とか。
でか美ちゃん:『Hey! Unfair baby』を選んでいるのが「市川さんだな〜!」って思いました。
市川:中間管理職みたいな歌詞、好きなんですよね(笑)。ふたりともパワーになる歌詞を選んでいるんだけれど、方向性が違うのがおもしろいですね。
でか美ちゃん:たぶん、私は根がネガティブな人が選ぶ歌詞なんだと思います。ハロプロの楽曲があって、やっと一人前になれるくらいのマインドがあるのかもしれない。
つんく♂:実際に歌詞から、背中を押されたなと思うことがあるの?
でか美ちゃん・市川:あります、あります!
でか美ちゃん:たとえば、何か大きな決断をしなきゃいけない時に、「こんな歌詞があったしな」って思って一歩踏み出した機会が人生で何回もあります。
市川:私も個人的に思い出深いのは『セクシーキャットの演説』です。でか美ちゃんと、唯一被ったパンチラインです。
つんく♂:ほんまや!
市川:苦しい仕事があって精神的に一番追い込まれていたとき、この曲を聴いて「簡単にできることじゃない」とハッとさせられたんですよね。
でか美ちゃん:そのあとの歌詞に結ばれるところもいいですよね。サボりたい気持ちや怠惰な部分を全否定するんじゃなくて、そういう自分や状況も含めて鼓舞しているのがかっこいいし、結局お天道様は見ているじゃないけれど、自分のことは自分で監視してやるしかないと思える。本気で戦っていかなきゃいけないし、やればいいんでしょって歌われる感じが「そうだよな〜〜〜!」って思います。
市川:いかに自分が逃げて、言い訳しているのかというのも思わされるし、そういう時に追い込まれるんじゃなくて「脳内の一人格であるセクシーキャットを憑依させればいいのね?」って思う。シュンとしてしまうんじゃなくて、救いにもなるんですよね。
つんく♂:それは気づかなかったな(笑)。
市川:私は背中を押されるんじゃなくて、喝を入れてほしいというか背中を蹴られたいんだと思います(笑)。
つんく♂:暑いときに「暑いな、暑いな」と100回言っても涼しくならへんし、「お腹減ったな」とぶつぶつ文句言ってても満腹にならないやん。新幹線の中で焦っても、二時間半はしゃあないやんから動画を見たりして楽しんだ方がええやんと思う。すぐに届けなきゃあかんからって、新幹線の入り口のところでずっと立って待ってる感じ、というのかな。それを歌詞に書いていくと、こういう感じになった。幸せになれる行列なんてないわけやし、イヤイヤ言ってて解決するわけないから。
でか美ちゃん:つんく♂さんの歌詞って、前向きな気持ちにさせてくれるけれど、ちょっと切ないんです。頑張れだけじゃなくて、なんで頑張れって言うのか、当たり前の部分から歌ってくれるから共感しやすいし、ネガティブな要素が含まれているんですよね。一曲の中に二面性があるんだけれど人間は誰しもそうだから、気分が違ったり自分が変わったりしても、共感できる部分が常にある。今回選んでいて、それがほんとにすごいなと思いました。
市川:わかります。諭されるというか、「前向きにならないともったいなくない?」と自分から自然と気付けるような仕掛けになっているんですよね。それがときに不思議なセンテンスだったり、シンプルなメッセージだったりする。
つんく♂自薦のパンチライン!「Berryz工房は曲でまとめなきゃいけない」
つんく♂:ふたりの選んだものを見て「俺も選ぶだろうな」って思ったのは『よしよししてほしいの』の歌詞かな。
でか美ちゃん:こんな気持ちまで汲み取ってもらえるんだ、という驚きがありました。性格的にヘラヘラしちゃうので、「そうしてやってんだよ」という気持ちを代弁してくれている。私的に驚きだったのが、周りの男性のハロヲタが「わかる」と話していたんですよね。サラリーマンもたしかにこういう気持ちを抱きそうだし、男性と女性で感じる笑顔の防御の感覚が近いんだなと思いました。
つんく♂:あと、Juice=Juiceの『私が言う前に抱きしめなきゃね』もわかるな。
市川:私も大好きです!
でか美ちゃん:そうなんですよ。女の子の複雑な乙女心は全部これ。言う前にやってくれよ。言ってからやってんじゃないよ。
市川:なんでもそうですよね。しかも、これをタイトルに持ってくるのがいい。サラッとフレーズとして入れてもいいのに。
つんく♂:市川さんが選んでくれたメロン記念日の『香水』は、俺も選ぶと思う。
市川:弱さと切なさが混ざっていて、ここじゃなかったらしてしまうんだ、という感じが滲み出ていて。私はメロン記念日の曲で好きな歌詞が多いんですよね。『夏の夜はデインジャー』の、結局会ってしまうんだ……という感じとか。
───おふたりが選んでいない中で、つんく♂さんが選ぶパンチラインは?「この歌詞が意外と選ばれてないな」と思うものはありましたか?
つんく♂:『ザ☆ピ〜ス!』の歌詞は入るだろうなって思ってたけど、どうだろう……これまでに2000曲近くの歌詞を書いてるから覚えていないフレーズも多くて、ファンのみんなが掘り起こしてくれて「あった、あった!」って思い出してるかな。でも、今まで話題にあがってないものだと市川さんが選んでくれたBerryz工房の『cha cha SING』はおもしろくて好き。
でか美ちゃん:私も大好きです! Berryz工房を象徴する歌詞ですよね。
市川:Berryz工房の曲は「どういう意味だろう?」ってなる歌詞が結構多くて、たとえば『ゴールデンチァイナタウン』のこのキスは、どんなキスなんだろうと想像が膨らんでしまいます(笑)。エキセントリックは、芸術家に対しては褒め言葉だけど必ずしもいい意味の言葉ではないから、どんなイメージをすればいいんでしょう?
つんく♂:リズムをちょっと崩したかったんだと思う。それありきで、いろんなカタカタ言葉を探していて、このワードを使いたかったんだと思う。英語圏出身だから気になるんやろうな。
市川:それは思いました。語学として気になるんだろうな、と。
つんく♂:だから『アジアンセレブレーション』の「Let's have a celebration!」って英文も正しくない英語かもしれんけど、このノリがいいから、リズムにハメるためにこの歌詞にしたんよね。「まあ、突っ込まれてもしゃあないな」と思いながら仕上げた。
でか美ちゃん:すっごい細かいフレーズなんですけど、『すっちゃかめっちゃか〜』のこの歌詞が大好きなんです。
つんく♂:この歌詞は俺も好き、かっこいい。
でか美ちゃん:人生における大事な人の登場に、自分の範囲じゃなくて歴史ごと動かしちゃうのがすごすぎますよね。この「ターン」という部分に、どうして鉤括弧がついているんですか?
つんく♂:英語にしてもよかったけど、読めないのは嫌だからカタカナにして。でも、曲を聴くと単語に聞こえない可能性もあるから「ターン」ってまとまりを意味するために鉤括弧をつけた。
でか美ちゃん:なるほど!自分のハロプロの体験がこうなので、すごい共感できるんです。パッと聴いた時に「ターン」は回転する意味だと捉えたけれど、曲だけ聴くとたしかに単語に聞こえないかもしれないですね。
市川:私もこの歌詞が大好きです。Berryz工房は挙げきれないほど好きな歌詞がたくさんあります。
つんく♂:Berryz工房は°C-uteよりも個性が強くてゴチャっとしてたから、曲でまとめないとって感覚があった。それは太陽とシスコムーンも同じやけど、モーニング娘。よりも°C-uteよりもBerryz工房と太陽とシスコムーンの方が手がかかるし、ようできてると思うものがたくさんあるかな。
でか美ちゃん:Berryz工房の歌詞は普遍的なフレーズも多いじゃないですか。それを、彼女たちのような個性ある子たちが言うから響く部分もありますし、今つんく♂さんの思いを聞いて納得しました。たしかにゴチャっとした子たちがゴチャっとした曲を歌ったら、ごちゃごちゃですもんね(笑)。
市川:その中で、°C-uteに書く歌詞はどういう感覚で書かれていたんですか?
つんく♂:歌を歌えるメンバーが、初期は鈴木愛理と矢島舞美だけで、正直彼女たちはこねくり回せない。松浦亜弥もそんな感じで、『Yeah! めっちゃホリディ』とかはすごい変化球なのに、彼女の器用さが相まってこねくり回した感じに聴こえなかった。逆に、藤本美貴は粘れば粘った分、歌に味が出てくる。『ブギートレイン'03』のレコーディングも、やればやるほど奇跡のTAKEが取れたんよね。
なので、実際には°C-uteも変化球をたくさん用意したけど、結果的に真っ直ぐストレートに仕上がって聴こえているものが多いかもしれん。メンバーにとって、ちょっと難しいくらいの曲にチャレンジするのがちょうど良かったんだと思う。『Danceでバコーン!』とか、かなり変態な曲やで。でも、さらっとこなしてるやろ? そんなんもあって後半は目線がどんどん大人になってったと思う。
市川:人生ってそんなもんだよ系が多いですよね。私は「ああ、やだ」というところが、パンチラインではないけど好きです。「wow wow」ではなくて歌詞を入れる感じが。
でか美ちゃん:わかります。そこにその文字をハメるんだ系ですよね(笑)。
市川:大胆というか、そのハマり方で曲の雰囲気が変わってしまうじゃないですか。
つんく♂:この二つの音だけでも意味を持たせたいんよな。「no no」も違うし。
でか美ちゃん:そういう意味だと、ここに出してないんですけど『Tokyoという片隅』の「居ーーるーーー」が大好きです。
つんく♂:(笑)。
でか美ちゃん:パンチラインとは違うんですけど、ここにその2文字をハメるんだ、で感動する歌詞ってたくさんありますよね。
市川:あります、あります。
つんく♂:メインのサビには使わないけど、最後に印象強く残すようにそうしてるかな。
市川:私はこの曲は、シャ乱Qの『正解のない世界』と同じカップルの傍ら同士なのではないかなと勝手に想像してます。オルガンっぽい間奏が似ていることもあるんですけど、別の街にふたりが行った世界線だと思ってセットで聴いてます。そこまで振り返って書くことはないですか?
つんく♂:でも、納得するよ。どちらもアマチュアバンド時代の俺の気持ちで書いてるから、ハングリー精神みたいなものが反映されてるから世界線は近いし、鋭い分析やなと思った。
つんく♂パンチラインを語るおもしろさって?
───もうそろそろお時間が……。
つんく♂:語り足りないな。何でまとめよう?(笑)
でか美ちゃん・市川:(笑)。
───御三方の目線で、つんく♂パンチラインがどうしてこんなに語るのが楽しいと思われますか?
つんく♂:正直、俺はまだ全部のパンチラインを読めてないけれど、こうやってふたりに語ってもらえることがうれしいし、歌詞を書いてよかったと思う。でも、一番うれしいのは、シングル曲じゃなくてアルバムの曲でも隅っこまで全部触って、ちゃんと丁寧に聴いてくれてるから、それはうれしいなと思ってます。
でか美ちゃん:私が思うのは、つんく♂さんが「歌詞は詰め込みすぎない方がいい」とおっしゃっていましたけど、詰めこまれていないから自分の話をしたくなる余白があるんだと思います。音楽全般好きなので、ハロプロ以外の楽曲もたくさん聴くのに、人生に寄り添ってもらっている楽曲の割合が圧倒的に高いんですよね。だから私も、市川さんの話を聞きながら「私もこういう経験があります!」と話したくなるし、自分の人生が連想される曲が多いから語りたくなるんだと思います。
市川:ちょうどいいディテールですよね。そのディテールが心の扉を開いてくれるから、どんどん語りたくなる。私がつんく♂さんの歌詞を好きなのは、一見ふざけているのに実は深いことや真面目な話をしているというのがグッときます。だからこそ、発見する楽しみがたくさんある。たとえそこに正解がなくても、自分なりの正解を見つける楽しみがありますよね。電車が好きなので、Berryz工房の『スッペシャルジェネレーション』で「池袋過ぎたって」は何線なんだろうとか(笑)。全部考えるのが楽しいし、深い意味があるし、文学性があるなって思います。
でか美ちゃん:あと、つんく♂さんの歌詞はジェンダー視点で語られることも多いけれど、強い女像とは違うと思うんです。女とか男とか関係なく「人間」に向かって歌ってきたから、女性にもフィットしたのかなと個人的に思っています。だから、男女問わず自分の話をしたくなるし、人生に寄り添ってくれるんだなとあらためて思いました。
つんく♂:うれしいなー、頑張ってきた甲斐がある。ちなみに、池袋は埼京線。
市川:(のけぞって)えー!埼京線なんですか!雰囲気的には東武東上線だと思ってた。または、山手線の外回りで、池袋を過ぎたって巣鴨=おばあちゃんになってもこの愛はえ・い・え・ん、みたいな。
でか美ちゃん:大宮から遊びに来るタイプの子だ。
市川:それだとだいぶ曲の雰囲気が変わるな……。
でか美ちゃん:(笑)。
つんく♂:でもこんな風に掘り下げてもらえて、ほんとにうれしい。ほんまにありがとう。
でか美ちゃん・市川:楽しかったです!
でか美ちゃんさんと市川紗椰さんのアフタートーク
───今日は盛り沢山でしたね。まず、対談を終えての感想は。
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