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米津玄師「KICK BACK」をきっかけに振り返る、「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」 のフレーズが生まれた理由。 

 マガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」のご愛読、ありがとうございます。今回はモーニング娘。「そうだ!We're ALIVE」のあのフレーズが誕生するまでを振り返ったコラムを、全文無料でお届けします。
<文 つんく♂ / 編集 小沢あや(ピース) / イラスト みずしな孝之

テレ東で10月11日24:00より始まったアニメ番組「チェンソーマン」。

このアニメ番組の主題歌を米津玄師くんが担当していて、その曲「KICK BACK」の一部にモーニング娘。の「そうだ!We're ALIVE」の歌詞やフレーズが使われています。

経緯に関しては以前の僕のコラム「米津玄師氏の担当の方から連絡がありました。」の中で解説させてもらいました。

アニメ「チェンソーマン」、当然14歳の長男や妻と一緒に楽しませてもらっています。正直、僕も年齢的にも環境的にも、こういうきっかけがないとこの作品に触れる機会がなかったように思います。でも、今回はじっくりアニメを鑑賞しています。

我が家は現在、ハワイに住んでいます。長男にこの曲のエピソードを伝えると「あ、知ってるよ。学校の仲間もこの番組が始まる話題が出てた」と、オンエアになる前から知ってたようです。

そういう意味ではアメリカであっても、日本のアニメや文化に興味の強い連中は常にこういう情報にアンテナを向けているようです。しかし、何でもかんでもを受け入れるわけではなさそうで、この番組は感受性の鋭い若い連中に刺さっているように感じた瞬間でもありました。

「そうだ!We're ALIVE」制作当時を振り返ってみます

で、今日お話しさせていただきたいのは、そもそもその元になった「そうだ!We're ALIVE」に関してです。

20年以上も前に作った曲で、正直いうと、細かな部分はすっかり忘れてました。作ったことは当然覚えているし「レコーディングは年末の忙しい忙しい最中にやったな〜」とか「トラックダウンがマジで大変だったな〜」とか、そういうのはしっかり覚えてます。「ベルベットの衣装が重かったかなぁ〜」とか「ダンスの振り付け、ちゃんと体に染み込んでるかなぁ〜?」とかね。番組で歌った時のことも。

当然、作った後も、トラックダウンする時も何回も聴くし、ビデオを作る時も、番組に出る時も、ライブで歌う時も、それ以降もラジオや有線から流れるのも、何度も何度も聴いてます。歌詞も当然僕が書いたんだし、どんな内容かよくわかっています。

「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」 のフレーズが生まれた理由

あれ? そういえば、なんで「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」 なんだ?

歌詞なんだから 「努力」ってきたなら韻を踏むこと考えて「すごく!」とか「楽しいです!」みたいな感じで続けたり、なんかそんな作詞家的なテクニックを考えそうに思うんですが、そうしていないですし。

で、しかもこの後は、「努力 Ah Ha A BEAUTIFUL STAR」「努力 前進 A BEAUTIFUL STAR」「努力 平和 A BEAUTIFUL STAR」と、書いているんです。縦に読んでも韻を踏んでいるわけでもなく、「Ah Ha」や「前進 平和」と並べたとき、リズム的にもゴロが良いわけでもないし。

……ってな具合に、「なぜあの頃の僕はこんなふうに歌詞を書いたのだろう」と自分で考察していると、作詞した時の記憶が蘇ってきました。

きっと僕の中で、「努力」というのはこの曲のこの場面でのキーワードです。で、「We are alive」=「僕らはみんな生きている」という大きな全体的なこの曲のテーマであることは、自分でもよくわかる。

大事な部分は、「生かされてる」のでもなく、「のほほんと生きてる」のでもなく、「自分で前向いて生きるんだぜ!」ということ。この「生きるんだぜ!」っていうのをモーニング娘。たちと一緒にメッセージしたかったように思うんです。

で、そういう中での「努力」。努力なしでは積めるものも積んでいけないぜ! というのは今読み返せば僕が自分への戒めのつもりで書いてると思われます。

そういうのが基となって特徴的な場面となったこの場所。要するに、今回米津氏が引用してくれたフレーズに繋がっていくわけですが、努力すれば未来につながる。そして、その積み上がった努力の結果が、美しい星となるはずだ! というメッセージ。確かに、すべてはこの1行に詰まっています。

2行目はリズムを崩したくて、あえて「Ah Ha」と書いたんです。今だったら、ここは「Ah Ha?」 とクエスチョンマークを入れたかったなぁ……って思いますね。

で、3行目で「前進」となるのは1行目との繋がりで、努力すれば、先に進む。そしてその努力の積み上げは美しい星へと導くというメッセージ。で、4行目の「平和」ですが、平和も努力で積み上げていくものだというメッセージ。

ただし、ここに作詞家としてのちょっとした言葉遊びがあって、2行目の「Ah Ha」と並行して「Hey What’s?」みたいな響きになればいいなって考えていたと思うけど、そんな英語はないし、「What’s up?」とかなんとか英語にするより、「平和」のまま進んだな〜。ってことを思い出しました。

作詞する時間がたっぷりあるのだったら、また違うことを考えたかもしれないけど、あの頃は時間との戦い。限られた時間の中で脳細胞フル回転で書き上げたことを思い出せました。

さて、ここからはハロー!プロジェクトのファンの方に向けて、ちょっとマニアックなお話を。よく「つんく♂節」なんて言われますが、ちょっと粘りのある、特徴的な歌い方について解説します。なぜ、あの歌い方になったのか。

「幸せに」を「し っいや うわ せ に」と歌唱させたワケ

サビを振り返ると、「幸せになりたい あなたを守ってあげたい 本当の気持ちはきっと伝わるはず GO! GO! GO! GO! We’re ALIVE」と「幸せになりたい あなたを守ってあげたい 平凡な私にだって出来るはず GO! GO! GO! GO!」と「幸せになりたい 愛情で包んであげたい いくつになっても WOW 青春だよ GO! GO! GO! GO! We’re ALIVE」の3種類の歌詞が登場します。

「幸せになりたい」の部分の歌唱として「しあわせに」でなく「しやわせに」と歌っている部分は、サビで毎回登場します。

ここ、大阪弁ではもしかすると「しやわせに」と発するのは普通なのかもしれないなぁ、と思ってみたりもしましたが、音楽的な部分でいうと、もっと正確には「し っいや うわ せ に」と歌ってもらっています。

どういうことかというと、曲のメロディが少しハネています。このハネてる感じは若い時はどうしても突っ込んでしまいがちです。本来の音符の位置よりも早くその音に到着するので、リズムより前に声があるような状態になるわけです。

もちろんPro toolsを使って、声の位置を下げることも当時からやっていましたが「どうせならば歌い方でちょっとでも粘りのある感じの歌にしたい」と考えたのです。

なので、そうなるようにするためにも、「し あ わ せ に」と歌うより 「し っいや うわ せ に」 と、音符を増やすように歌うと、歌が少し後ろに下がるイメージになります。また、Pro toolsでのエディットもしやすくなるメリットがあるので、仮歌からそうやって歌って、そのように覚えてきてもらう習慣が、ハロー!プロジェクト界隈では当たり前になったわけです。

と、まあ米津くんの「KICK BACK」きっかけで20年前の記憶を掘り起こすきっかけとなりました。

ちなみに、あの頃も毎回シングル出すたびにセルフライナーノーツを書いてたと思ってたんですが、忙しかったのか、「そうだ!We're ALIVE」に関してのライナーノーツがなく……。あったのはベストアルバムの時にちょこっと解説をしてた程度でしたね。ちょっと残念。本当はどんな気持ちで書いてたのか、当時の言葉で振り返ってみたかったです。

ということで、「なぜ、努力の後が未来だったのか」そして「なぜその後がA BEAUTIFUL STARだったのか」の解説ですが、自分でもわかったような、わからんような。そんな感じですが、何か感じとってもらえたら幸いです! ではでは〜! なんかすごい良い感じ!

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